スクールアイドルプロデューサーの陰謀

@neet

プロローグ

 中学の俺は朝から晩までエロいことばかり考えて毎日を生きていた。

 朝起きれば生理現象でいきり勃つ我が一物にひとしおの思いを巡らせ、昼過ぐれば女子の背中で存在を主張するレース模様の下着を喉から手が出んばかりに睨みつけ、夜来たれば仲良く手をつないで帰路につくカップルの後ろ姿を物欲しげに追いかけ、そうやって退屈な日常に微かな潤いを注ぎながら思春期という貴重な時をいたずらに浪費していた。

 日々が単調だった。年度が新しくなるごとにクラスは再編成されるものの学校という檻の中で出会える人間には限りがあるわけで、季節は変われど友達は変わらずというもどかしさが俺の心の中で常に渦を巻いていた。校則では下校中の買い食いは禁止されていたし、オシャレして頭髪をいじろうにも制限がかかっていた。制度やルールに縛られ、学校と家を往復するだけで完結する代わり映えのしない毎日に嫌気が差していたんだろう。少しくらいおかしな方向に欲望が加速するのも許容範囲内だと思ってもらいたい。中学生男子が日常のエロ体験を引き寄せようと奮起するのは自然の摂理と言っても過言ではないだろう?

 そんな俺のささやかな楽しみは学内でトップレベルの可愛さを誇る美少女たちと交流することだった。どんな学校にも、男子に人気があって存在するだけで気分を華やかにしてくれる女子というのがいると思う。もちろん俺の通っている中学にもいた。彼女たちと楽しくおしゃべりがしたい。あわよくば、おいしい展開に発展してほしい。そうすればバラ色の学園生活が訪れる。強い志は確かな原動力となり、俺の行動を決定づけていた。

 だから、休み時間は不審な行動ばかりしていた。他のクラスの美少女に気づいてもらおうと廊下の窓辺で哀愁ただよう横顔を披露してみたり、自分のクラスの人気女子に近づこうと、大して仲の良くない男子にわざわざ話しかけに行ったりなど、記憶を辿ると顔から火が出るくらいに恥ずかしい思い出たちが脳裏に浮かぶ。これらはもう黒歴史でしかないけれど、あの頃は些細なことで一喜一憂するのが心地よかった。苦労の甲斐あってか彼女たちに認知されることには成功、多少は口を利いてもらえるくらいには関係を進めたつもりだった。

 でも、いくら頑張ったところで美少女たちと親しい間柄になるのは無理だった。接点のない男子から急に話しかけられて、なにを話していいかわからないというのは中学生女子の典型的反応だ。話のネタを用意していなかった俺にも落ち度はあるだろう。それに、俺はイケメンではなかった。彼女たちも身長まあまあ、顔普通の俺とはそんなに仲良くなりたくなかったということなのかもしれない。別に、顔、性格、その他もろもろの自分自身に自信がないと言っているのではない。イケメンには勝てないと言っている。俺が悪かったのではなく、状況が良くなかっただけだ。

 めげずに美少女との交流を求め続けた俺だったが、彼女たちを観察しているうちにある奇妙な状況に遭遇した。それは、彼女たちがイケメンでもない普遍的中庸な男子生徒らと好意的に話をしているというものだった。不思議に思った俺はそれとなく彼女たちに探りを入れた。聞くに、彼らは同じ部活の男子だとわかった。練習のメニューや大会の日程など多くの共通点を持つ彼らは話題に困ることなく彼女たちと楽しく交流していた。彼らのスキンシップや冗談を交えた軽快なトークに彼女たちも頬を上気させているようにみえた。俺に見せる冷然な顔とは明らかに違う表情をしていたのをはっきりと覚えている。

 そして俺は閃いた。可愛い女子と一緒の部活に入部すれば懊悩することなく学園生活を華やかなものへと昇華させることができるのではないかと。放課後には無条件に会うこともできるし、帰りの時間がかぶれば一緒に帰宅することだってできるかもしれない。休みの予定だってわかるから遊びにも誘いやすい。つまらない現状を脱却するにはこれしかないと思った。

 だが、いまさら新しい部活に入部したところで遅いと悟った。俺の所属する部活にも頓珍漢な時期に入部を希望した輩がいたのだが、そいつは半年経っても部に馴染んでいないことを俺は経験的に知っていた。入部初期のメンバーはそれでグループになることが多いし、途中から入って馴染めるのはコミュ力のある化け物だけだ。いっそのこと高校へ進学してから、そういう目的でそういう部活に入ろう。意志は決まった。

 それから高校でどんな部活に入ろうか思案した。美少女が入部しそうな男女混合の部活にはどのようなものがあるかをネットで検索しながら想像をふくらませた。男子だけもしくは女子だけの部は除外した上で、候補として吹奏楽部や美術部といった俗にいう文化部が残った。ただ、その文化部は俺の目的に適しているかを斟酌すると一抹の不安が陰った。吹奏楽部は運動部並にハードだと聞くし、美術部は美少女を発掘できるほど多くの女子がいるとも限らない。どちらも可愛い女子と交流するためだけに選ぶには険しい道だ。そうやって条件を絞っていくうちに俺の目的に沿った部活はないように思えてきて、そして決意した。

 ならば、作ってしまおう。アニメやライトノベルといった創作作品には聞いたことのないようなご都合主義の活動団体があふれている。きちんとした手続きに則ればどんな団体であろうと作ることくらい可能なはずだ。軽はずみなノリで俺は、俺の俺による俺のための活動団体を設立することを思いつき、構想に明け暮れた――

 そうしてできあがったのがアイドル部(仮)だ。これならなんの苦労もなく美少女たちに近づくことができるし、部のためだと言い張れば幾ばくかの強制力まで働かせることもできる。一部の方にはアイドルは男子禁制だろうと思われるかもしれないがそこは心配ない。俺はマネージャーもしくはプロデューサーの座に就く。エグゼクティブな立場からいろいろな悪だくみを実行するのが俺の役目ってわけだ。可愛い女子に囲まれて、あるときは尊敬され、またあるときは恋愛し、そのまたあるときはちょっぴりエロい事をしながら高校生活に華を添えてやる。

 幸い、空前絶後のアイドルブームのおかげで少しくらいはアイドルを語れる知識もある。噂ではスクールアイドルを部活に採用する高校も増え始めているとも聞く。アニメやメディアのおかげでアイドルに対するハードルも下がってきている今こそ、身近なアイドル団体を結成するべきではないか。時は来た。俺が名乗りを上げて、身近なアイドルもどき達と一旗あげてやる。退屈でつまらない毎日なんかとはおさらばだ。

 そんなこんなで、膨らませた妄想や煩悩と闘いながら俺は受験勉強に励んだ。ミーハーな美少女との邂逅を果たすには、都内の華やかな土地にある高校を受験しなければならないと思ったのだ。もちろん偏差値が高いのは覚悟の上だった。でもやるしかなかった。もしもそんな高校でアイドル部(仮)を作れたなら、才色兼備の最強美少女がぞろぞろと集まるんじゃないかと胸躍らせては机に向かった。そして俺は猛勉強の末、受験を突破し、

――都立新山高校へ進学した。

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