第11話:『イプシィ=ロンデルタ』

 「ん?」


 ロールが変な声を上げたのは、『ディラック』の隠された能力が明らかになったとかそういうわけではなくて、デッキ内に見慣れない人影を見つけたからだった。


 「誰だろ」

 「さぁ」


 大きなトランクケースを手に抱えた女性が、きょろきょろとデッキの機体を見回していた。迷子、というのは、街からこれだけ離れている前線基地においてまずありえないから、何かしらの用事があったのだろう。


 女性は、あまり街でも見慣れないような服装をしていた。髪は腰まである金髪で、様々な装飾や編みこみがなされていた。眼は前髪で隠れている。服は全体的に黒っぽく、緻密なフリルが随所につけられている。洗濯するのが大変そうだ。スカートは足首まであるロングのもの。その端から見える、編みこみブーツ。


 「ゴスロリ……」という聞き慣れない呪文を、ロールがぼそりと呟いた。


 「あのー、道案内しましょうか」


 見るに見かねてぼくはその女性に声をかけた。もしかしたら、旦那さんかお父さんがここで勤めている人なのかもしれない。であるならば、この前線基地で戸惑ってしまうのも当然だった。


 「あの……」


 声をかけてみたけれど、女性は顔を伏せたままだった。顔を真赤にして、唇を震わせている。人見知り? それにしても極端すぎる気がした。こんな何気ない挨拶程度で、そこまでガチガチにならなくても。


 「あのー。どちらにご用事でしょうか」

 「……ぁ」


 ぼそっと聴こえたが、とても聞き取れるものではない。助けを求めて後ろを振り返ってみるものの、ロールが無表情な瞳で見つめているだけだ。いや、無表情じゃない。バイザーに『女性に手を出すの、早いわね』と書かれている。そんな!


 困ってしまったぼくはおろおろするばかりだ。目の前では、少し年上と思われる女性が顔を真赤に顔を伏せていて、引くも押すもできない。いっそファフロッキーズでも現れてくれとも思った。


 「おー、イプシィじゃん。おひさー」


 眠そうな声が聞こえてきて、縋るように振り返ると、ミューが『マグナス』のコックピットから顔を出していた。欠伸を一つ、ぼさぼさの黒髪は、もうばっさばさだった。


 「念のため、落ち着くまでここで寝起きしているんだー。で、なんか懐かしい感じがしたから、顔を出してみたってわけだ。こらこら、ゼペット、イプが困ってるじゃないか。どんな卑猥なことを要求したんだい?」

 「ちょ、ちがう!」

 「ロングスカートのせいで脚はほとんど見えないのに、もしかして隠れてるほうが想像できるってタイプ? そりゃ、シィ以上に、すらっとしてるけどさ」


 ミューはタラップをひとつひとつ下りながら、大変失礼なことをぶつぶつ言い続けている。ようやくその小柄な身体がデッキの地面に降りて、とてとてと走ってくる。


 「紹介するよ、彼はゼペット。脚フェチマン」

 「ひどい」


 あんまりだった。


 「そんでこちらは、イプシィ=ロンデルタ。ボクの親友。見ての通り、人見知りのぼっちでコミュ障。察してあげて」

 「ひどい」


 とても親友の紹介とは思えない言葉選びだった。


 ぺこりと、イプシィという少女が頭を下げる。それにしても、小柄なミューと、すらっとした長身のイプシィがこうして隣同士に並ぶと高低差がひどくて面白い。ミューは首が痛くならないのだろうか。


 「それにしてもイプシィがここに来たってことは」

 「……」

 「やっぱり。アレは?」

 「……」

 「にゃるほどね」


 イプシィと呼ばれた少女は後ろを振り返った。そこには巨大なコンテナを積んだゼンマイ車が止まっている。あれに乗って街からやってきたのだろう。


 超巨大で強靭なゼンマイをその内部に蓄えたゼンマイ車というものは、街の魔石から供給される動力できりきり巻いて、そのエネルギーの解放に合わせて走る車のことだ。


 「教えてあげるよ、ゼペット。人見知りでぼっちなイプシィにもボク以外に、大切な友達がたくさんいるんだ」

 「うん?」


 ミューはイプシィの持っているトランクケースをふんだくって、それを開いた。慌てるイプシィだったが、声が出せないのか、口をぱくぱくさせている。


 さて、開けられたトランクケースの中には、たくさんのぬいぐるみが詰まっていた。ミューは悪戯げな顔でこちらを見上げる。


 「これ。イプシィの大切な友達」

 「ほ、ほら」


 イプシィの声が初めて聴こえた。スカートを折りたたんで、トランクの中のぬいぐるみの一体を見つめている。


 「ドク、きちんと挨拶をして。ほらほら、こんにちは~。こちらはゼペットさんというのよ。グランピーもハッピーも、はじめまして〜って。これからたくさんお世話になるんだから。スリーピーもきちんと挨拶なさい。恥ずかしがって挨拶できないやつにろくなやつはいないんだから(五分経過)」


 『ね?』という目線をミューから送られたが、それに対してどうにもコメントできないぼくである。というか、この人、トランクばかりに話しかけて、ぼくのほうを一切向いてない。こわい。


 「バッシュフル、ミューにも久しぶりって挨拶しないと――」


 ぶつっとその饒舌が断ち切られたのは、ミューがトランクケースを閉めたからだった。スイッチが切られたように唇を閉じたイプシィという女性は、また顔を真赤にしておどおどしていた。


 「こんな子だけど、悪い子じゃないからよろしく。シャワー覗かれたらきっと気絶しちゃうから、絶対にしないようにね。そう、絶対に。絶対だぞ〜!」

 「しないって!」


 ※


 「何だったんだろう、あの人」

 「押し倒したら抵抗しなさそうね」


 妙に不機嫌なロールと、『ディラック』の整備に戻った。サブアームの点検は1日仕事でも終えられなさそうで、とりあえず整備計画の練り直しが必要だった。


 イプシィ=ロンデルタという少女は、とりあえず司教に挨拶ということでミューが連れて行った。オペレーター、ではなさそうだから、事務方の子なんだろうか。


 「ねえ、ミューの部屋って」

 「ああ、気になってたんだ」


 ミューの趣味は『解体』。部屋には数知れないぬいぐるみが、ぼろぼろの姿で打ち捨てられている。唯一無事なのは、街で買ってきたであろう『マグナス』のキットくらいで、なんというか、大量殺人現場というか、あんまり聞くに聞けないスプラッタな部屋だった。


 そんな彼女と、ぬいぐるみが友達だというイプシィ。いったい何がどうすれば友達となれるのか、ぼくたちにはとても想像の及ばない領域だった。


 「とりあえずサブアームの整備はこの順番で進めれば、3日もあれば点検できると。おやっさんにも協力を仰いでみる。あと複座のコンソールとサブアームの対応関係もきっちり調べないとね――」

 「ゼペット。時間。シィに蹴られるわよ」


 機械いじりに夢中になって、忘れていたが、時計を見れば、すでに約束の時間になろうとしていた。慌てて首にかけていたタオルで機械油を拭う。


 「ん、ロール? どうしたの?」

 「あの子、連戦でふらふらだから、優しくしてあげて」


 デュアルアイがぺかぺか光る。さっきまで妙に不機嫌だったのに。無表情だからその言葉の真意はわからないが、ノイズ混じりのその声はどこか懐かしい感じがした。


 「うん。行ってくる」


 シィ=ライトロード。無二姫(ワンオフき)『ケレリタス』を操る神速の姫君。極限まで防御を度外視して、速度のみに特化したピーキーな機体。ファフロッキーズの巨体を手玉に取るその戦闘は、まさに舞のようだった。


 シャワーを覗くなんてアクシデントがなければ、きっと一言も交わす機会がなかったであろう、この前線基地のトップエース。


 街では機体のモデルも売られており、戦姫としてファンも多い。


 「……遅かったわね」


 そんなカリスマそのものの少女が、頬をふくらませていた。前線基地内の廊下を全力疾走したが、少し間に合わなかったようだ。で、扉を開けて見ると、予想外な少女趣味のピンクの部屋でびっくりしてしまった。


 それが部屋着の彼女に気づかれてしまったのか、露骨に不機嫌になったのだ。


 「その、ミューの友達がね、コミュ障で、えっと、はい。すみません」


 ロールと長く一緒にいるせいで、謝るときにはボディブローを受ける覚悟を決めているのだけど、シィに鳩尾を殴られることはなかった。かといって、蹴られることもなかった。


 「は、入って」


 とぶっきらぼうに口を尖らせていた。


 「おじゃましまーす」


 彼女の部屋は、ぼくとロールの暮らしている部屋よりもかなり大きい。隅々まで綺麗にされていて、ほこりひとつ落ちていない。ほとんどモノがなくて、ベッドと、勉強机が存在感を放っている。勉強机の上には、数体の『ケレリタス』のキットモデル。


 そして。

 「す、座ってくだされ……!」


 ガチガチに緊張しているシィが指差したのは、部屋の中央に置かれていた小さなちゃぶ台だった。これだけ妙に部屋から浮いているような気がしたのだけど、近くで見て理解した。焼け焦げた跡が僅かに残っており、歪んだ幼い字で『ライトロード』と書かれていた。


 「かたちは悪いかもしれないけど、味はいいはずだから」


 と彼女が持ってきたのは、思っていた以上にきちんとしたカップケーキだった。ぼくのと、彼女の。そして紅茶が置かれる。こんなことを言っては蹴られるどころではないと思うけど、正直、黒い消し炭のようなものを想像していた。が、それに比べれば遥かにまともなかたちのものだと思う。


 「すごい」

 「でしょ」

 「いただいていい?」

 「どーぞどーぞ」


 ドヤ顔でぼくを見つめるシィに少しドキリとしながらも、カップケーキをスプーンですくって、口に運ぶ。これは。基本に忠実なかたちのカップケーキは、想像通りの食感で、ふわりと優しい感触が口の中であふれた。その暖かさに舌を預けながら、二度、三度と咀嚼していく。期待に満ちた眼で、シィがぼくを見つめる。


 ケーキの優しく、甘い薫りが鼻孔を包み込む――ことはなく、砂糖の甘さが舌先で踊る――わけでもなく、じゃりじゃり言うこれは。


 「しょっぱいんですけど」

 「へ?」

 「塩?」

 「隠し味のつもりだったんだけど」


 まったく隠れてない。じゃりじゃりという音を口の中に響かせながら、ぼくは予想外の辛さにしびれる舌を紅茶で慰めた。紅茶にも塩が入ってた。


 「そ、そんな顔しなくても……」


 きっといま、ぼくがしているであろう完全に『無』の表情に、涙目になるシィは怒る余裕もなく、慌てて自分のカップケーキを一口くわえた。

 そして、『無』の表情になっていた。


 「味見は?」

 「してない」

 「なにゆえ」

 「自信……」


 とりあえず『無』の表情のぼくたちは、無言ですくっと立ち上がり、キッチンへと向かった。ふたりで水を注いで、口をゆすぐ。不意に、隅にまとめられているゴミ袋を見ると、消し炭のような物体がいくつも包まれていた。


 ――頑張ったんだなぁ。


 「そういえば、『予の辞書に不可能の文字はないなぽ!』って言葉知ってる? 『朝までふろんてぃあ☆れいでぃお』ってラジオ番組が、ぼくとロールは大好きなんだけど」

 「……」

 「ケーキを作ろうとしている人って結構いるんだなって。街で流行ってるの? そのわりにはあんまり食べたことないけど」

 「……殺すしかない」


 やかんのように見る見る赤くなっていったシィは、ついに我慢の限界に達したのか、その黒いニーソックスで包まれた右脚でぼくを蹴り飛ばした。


 「ゼペット、わざと言ってるの!?」

 「って、何が!?」

 「もういい。これでお詫びはおしまい! もとはといえば、あなたがシャワー覗いたのがいけないんだから」


 ぷんすこぷんすこ言いながら、キッチンから部屋へと戻っていく。ぼくは蹴られた脇腹を押さえながら、こう呟いていた。


 「でも、覗けてよかったと思ってる!」


 それはもちろん、コッペリアに乗ることができたりとか、エースパイロットとこうして話すようになれたりとか、いずれはファフロッキーズとも戦いたいとか、そういう万感の想いを端的にまとめた言葉だったのだけど、どうやらシィにはうまく伝わらなかったみたいだった。


 耳まで真っ赤にして、脇腹に二度目の衝撃。その際に、いまぼくが床に尻もちをついている体勢からか、短いスカートの中身が見えてしまったことは黙っておく。


 「いてて……」

 「とりあえずこれで貸し借りはなし。このシィ=ライトロードのケーキを食べられたことだけでも、感謝なさい。めったにないことなんだから」

 「まぁ、めったにないだろうね、そりゃあ」


 と、ぼくが呟きながら立ち上がると、シィが途端にふらついたのが見えた。一瞬また蹴られるんじゃないかと思って身構えしまったが、急に重心を喪ったような動きだった。


 『あの子、連戦でふらふらだから、優しくしてあげて』


 ロールの言葉が咄嗟に脳裏によぎり、崩れ落ちそうな彼女の身体を支えた。コッペリアでの連戦。いくら『マグネス』のように負荷の大きくない機体とはいえ、魔石炉の影響は受ける。いくらエースパイロットだからといって、シィ=ライトロードはぼくと同じ年の少女なのだ。


 「ん、あ、ごめ――」


 と、気がついたシィが耳を赤くした。背後から抱きとめるようなかたちになっているので、表情は伺えない。あと女の子の身体ってこんなにやわらかいのかとびっくりした。ぼくが知っている女の子は鋼のような肉体を持っているから、なおさらだ。


 「あ、あの。ゼペット、そんなところを触られても」

 「う、うわ。ごめん!」


 身体の細さの悪いに主張の強い胸をわしづかみにしていることに気がついたぼくは、ぱっと離して、部屋の隅で震えた。幸い、蹴り飛ばされることはなかったけれど、「うわって言わなくてもいいじゃない……」というつぶやきが聴こえたような聴こえなかったような。


 警戒心も顕に自分の肩を抱きかかえるような格好をしているシィは、あからさまにため息をついて、笑った。


 「なんだか、あなたといると飽きないわ」

 「そ、それはよかった」

 「隠し味入れてないのもあるから、食べましょう」


 そういえばあの『朝までふろんてぃあ☆れいでぃお』でも、名も無き偉人の名言として『だいたい料理が下手な奴はいらん工夫をするんだなぽ』という言葉も紹介されていた。その言葉は本当だったようで、おずおずと出されたカップケーキを食べてみると、優しく広がる味がした。


 「おいしい! おいしいよ、これ」

 「そう? よかった。せっかくだから、わたしなりのアレンジを施してみようと思ったんだけど、失敗だった」

 「これなら長靴いっぱい食べられるよ」

 「そういう発言の節々に、脚フェチの怖さがにじみ出ている」


 ひんやりというした眼で見つめられて、ぼくは顔を伏せて紅茶を飲み干した。


 「ふぁ」

 「?」

 「ふぁーあ」


 シィが大あくびをする。そんなにぼくはつまらない人間だったろうかと落ち込んでいると、近くの大きな『ケレリタス』を模したクッションに持たれこんだシィが、半眼でこちらを見つめた。


 「やっと安心した」


 はにゃりを笑う。ぽんこつなところもあるが、基本的に街を守る騎士として、刃のようなオーラを纏っている彼女のそんな表情に、はからずもドキリとしてしまった。


 「ずっと寝ずにケーキばっかり作っていたんだから。ミューに頼んで山ほど材料買ってきてもらって。まー、出撃してはダッシュで帰って、ケーキと格闘する日々よ。睡眠時間もほっとんど取れてないわ。感謝してよね」

 「隠し味にこだわらなければ、もっと早く済んだのでは」

 「こら」


 睡眠不足らしいシィはよく見ると、かすかにくまが出来ている。一度安心したら緩んでしまったのか、さっきからひっきりなしに欠伸をし続けている。口をむにゃむにゃと動かして、もうほとんど眼が開いていないシィに、ぼくは『もしや』と思って声をかけた


 「もしかして、最近ふらふらだったのって眠かったから?」

 「そうよ? それ以外に何か理由がある?」

 「いや、『ケレリタス』結構乗ってたし」

 「わたしにとっては朝飯前よ。そりゃあ、早く終わらせてケーキを作るために、『タキオン』まで使ってゴリ押ししたのは申し訳ないけどさ。でも、凝り性っていうか、なんていうのかな、人になにかを作ってあげるのって、わたしの人生であんまりなかったから楽しくなっちゃって――、って、ゼペット?」


 ぼくは開いた口が塞がらなかった。それに対して何を思ったのか、シィがその口にカップケーキを詰め込んできたけれど、それどころじゃなかった。


 機甲コッペリアは、人類が唯一ファフロッキーズに対抗できる最終兵器だ。内蔵されている小型の魔石炉は強大だが、空間への汚染も強い。そのため、若手パイロットはすぐに使い物にならなくなってしまう。短くて一年、長くて三年。それはヒトがタンパク質で出来ていて、魔石が魔石であるために、避けられないものだと司教は言っていた。


 『しかし、それに頼らなければ、我々は我々を守ることができないのです。心苦しいですがね。村を守るために少女をひとり生け贄に捧げて、荒神の怒りを収める――それとやっていることはなんら変わりません』


 そうだ。魔石炉によるパイロットの消耗は、コッペリアという兵器の前提条件であったはず。ましてや、『モード:タキオン』の乱発など、ただ寿命を縮めるような行為でしかないはずだった。


 それを目の前の少女はけろりとケーキのために頑張りすぎて眠いとか言いながら、開いた口が塞がらないぼくの口にケーキをこれでもかと詰め込んでくるのだ。おいやめろ。どさくさに紛れてそれは、隠し味の入ったやつだろう!

 「ごめん、苦しむ顔が見たくて」

 「むぐぐ(ひどい)」


 リウス司教はシィに対して、魔石炉の毒のことを話していない。ミューのこともあるから、少し体調が悪くなる程度、という認識だろう。戦闘という緊張状態への疲労、くらいにしか思っていないと思う。


 「コッペリアに乗ってて鼻血とか出る?」

 「出ないわ。あなたみたいにエロいことは考えていないから」

 「血が止まらなくなったりとか」

 「ないない。なんなの、セクハラ?」


 毒が、効いていない?

 それは喜ばしいことではなるのだけれど、どこか釈然としない――というか、常識を超越したような何かそら恐ろしいものを感じた。目の前にいる少女は、本当に人間なのだろうか、と。


 「なにその、『常識を超越したような何かそら恐ろしいものを感じて、目の前にいる少女は、本当に人間なのだろうか、と』思っているような表情は。ゼペット?」

 「い、いや、なんでもないんだ」


 そうだ。シィ=ライトロードの不調は魔石の毒のような取り返しの付かない致死性のものではなく、睡眠によって十分回復するようなものだったのだ。いいことじゃないか。まさか『ケレリタス』を作った賢者たちも、ケーキ作成の時間のために隠しワザを使われるとは思っても見なかっただろうけど。


 「急に笑い出して怖いわ、ゼペット」

 「いいんだ、君が眠くてほんとうによかった」

 「寝こみを襲う宣言をされたわたしは、どんな表情をすればいいのかわからないわ」

 「笑えばいいと思うよ」


 株が下がり続けるぼくだった。

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