第2話 失われた記憶
…やっと来てくれた
う…うぅん…
その時、カレンは夢の中にいた。
実体のある夢の中に。
そしてその声はカレンを導いて行く。
お願い、私の声を聞いて…
その声はよく聞きなれた石達の声。
けれどそれはいつもの脳天気な世間話のトーンではなくとても真剣で一刻を争うような切迫した緊張感に満ちていた。
(い…一体…何？)
薄目を開けたカレンはこの場所が淡い白い霧に包まれている事に気付く。
現実ではないと頭では理解しながら…けれどそれがただの夢でもない不思議な現実感に彼女は戸惑っていた。
「ごめんね…僕が呼んだんだ…」
カレンが目を覚ますとさっきから聞こえる声がよりハッキリと聞こえた。
夢の中で目を覚ますって表現もちょっとおかしいけど…。
その時カレンはその声に応えなくちゃって…何故だか強くそう思っていた。
ガバッ！
カレンは勢い良く起き上がるとどこからか聞こえる声の主に向かって大声で叫んだ。
「教えて！私は何をすればいいの！」
初めてだった。
石の声に反応するのは。
そこが夢の中だからと言うのもあったのだろう…けれど彼女にも薄々と分かっていた。
もう…時間がない事を。
「カレン…君に選んで欲しいんだ…」
風がざわめいている。
夢の中であるその世界にひどく現実的な風が吹き荒れて行く。
そしてその風はカレンの周りを包んでいる白い霧を吹き飛ばして行く。
霧が吹き飛ばされて現れた世界はどこかで見たような森の中だった。
この森は…合宿で来た今まさに歩き回っていたあの森…によく似ていた。
視界がハッキリして少しばかり安心したカレンはあてどなく歩き始める。
夢の中の余りにもリアル過ぎるこの森を。
けれど歩いても歩いても森はずっと続いている。
そしてその森には何故か動物の姿が全く見当たらなかった。
それはこれが夢の中だからだろうか…。
生気のない森の中で時々迷いながらカレンは何かを探すように歩いていた。
その何かの正体も分からないままに。
それからもうどれだけ歩いただろう。
隅から隅まで森を調べたつもりになっても歩く度に森は新しい景色を形成して行く。
それはゲームで進む度に背景に新しいポリゴンが形成されるみたいに。
散々歩き回って歩き疲れたカレンはちょうどいい頃合いの石を見つけ、ため息を付きながらその場にペタリと座り込む。
この時、それまでにかなりの時間を費やした気がしながら、それとは逆に全然時間が経ってないようなそんな何とも不思議な時間の感覚にも襲われていた。
不思議な事はもう一点あった。
何処かから聞こえるあの不思議な石の声以外の石の声が全く聞こえない。
つまりこの夢はその不思議な石からのメッセージだけが聞こえる世界だった。
「ふぅ…」
一息つくと同時にカレンは空を見上げる。
その空はやはり夢の世界らしく現実にはない不思議な色合いをしていた。
その空の色を見ただけでここが現実でない事を悟らせるのに十分な程だった。
「その瞳ならもう見えるよね」
石に座って落ち着いていたカレンに不意をついて何処かから聞こえる石の声。
カレンはその声に従って目を凝らしてよく周りを見渡してみた。
この瞳になっても今まで特に何も変わらなかった視界がついに別の何かを映していた。
けれどそこで見えるものが何なのか、何の意味があるのか今の彼女には全く見当がつかなかった。
そしてうっすらと見え始めたその"石"に向かってカレンは語りかけていた。
「これって…」
「そうだね…じゃあ君から預かったものを返すよ」
カレンは忘れていた。
いや、その石に忘れるよう頼んだんだ。
石はカレンのその願いを叶え、しるしに瞳の力を与えた。
それが約束の証、翡翠の瞳。
瞳に力が宿る時、彼女は忘れていた記憶を思い出す。
その瞬間、
そう 全ての発端は空から星が落ちて来たあの日…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます