まじない石

 何故だか足の怪我が頻発した。

 つまずくぶつける踏まれるひねる、ありとあらゆる災難が右足ばかりに降りかかって、とうとう骨折してしまった。

 入院まではいかなかったのだけれど、しばらく仕事は休む事になった。

 二日もしないうちに日常の事がどうにも回りきらなくなって、親友に助けを求めた。


 呼ばれてやってきた彼女は、玄関でふと動きを止めた。「上がりなよ」と招くあたしを無視して、じーっとあたしの仕事靴を見ている。

 どうしたのかと問うより早く、彼女はひょいと靴を手に取り、指でその中を掻いた。

 と思うや、中からころりと小石が落ちた。玄関のタイルに当たって冷たい音を立てたそれを、彼女はつまんでぽいと外に、アパートの階段の方に投げ捨ててしまった。


「あんなの入れたまま平気だなんて、相変わらずにぶいなあ」


 ……いくらなんでもそこまで鈍くはないはずだけど。

 あとポイ捨てもよくないんじゃないかなあ。

 反論したいところだったが、でも小石が入っていたのは否定できない事実だ。あたしはもごもごと口をつぐんだ。

 彼女がその後作ってくれたカレーは、すこぶるつきに美味しかった。



 しばらくして職場に復帰すると、田辺さんがお休みだった。

 あたしの怪我の数日後、どういうわけか階段から落ちて足を折ったのだという。

 あたしとはあんま仲良くない、というかあっちがあたしを一方的に毛嫌いしてるっぽい人なのけれど、だからとって「ざまあみろ」と思うほど人間が腐ってはいない。

 同じ足の怪我だし、同病相憐れむってワケじゃないけどちょっと気になる。

 お礼がてらのご飯を奢るついででそんな感慨を語ったら、


「相変わらずにぶいなあ」


 どうしてだか彼女は、そう言って苦笑した。

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