口を利く

 妹から唐突な相談を受けた。

 部屋の壁に人の顔のような染みが浮き上がって、それが口を利くのだという。普通なら笑い飛ばすところだが、思いつめて不安げな顔を見てしまったらそんな真似はできなかった。


 妹と連れ立って部屋に行くと、確かに人の顔めいた染みがある。 

 擦れば消えそうな汚れに見えるが、幾度消しても同じ場所に浮かび上がってくるのだそうだ。

 ふむ、と腕を組んだ僕を、染みは確かにじろりと睨んだ。そして、


「何をしたって、俺はここから動かない」


 ぼそぼそとそう宣言した。

 小さな悲鳴で腕にしがみついた妹をなだめてから、僕は鼻で笑って染みの上にガムテープを貼り付けた。

 そこがいいというのなら、ずっとテープの下にいればいい。この様なら口も利けやしないだろう。



 ちなみにその後、妹の部屋の模様替えを手伝わされた。

 なんだが理不尽な仕打ちの気がした。

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