横切る

 残業で疲れ果て、早く家に帰り着こうと車を飛ばしていると、眼前の横断歩道の信号が丁度点滅を始めたところだった。

 一瞬突っ切ってしまおうという気持ちが湧いたが、すぐに考え直す。

 こんなぼんやりした状況が一等危ないのだ。こういう時こそ安全運転を心がけるに越した事はない。

 そう思って律儀に停車した。


 すぐに、そうして良かったと思った。

 ヘッドライトに照らされた横断歩道を、ずるずるとふたつの影が横切っていく。

 それを言い表すのなら、人間大の黒色透明な筒、というのが最も近い。

 輪郭はもやめいて曖昧模糊としている。薄く現れたりすっかり消え失せたりを、まるで切れかけの電灯のように短時間で繰り返していた。

 前後に連れ立つふたつの影は、背丈の差の具合もあって、まるで手をつなぐ親子のように見えた。

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