灸を据える

 ちょっとした畑をやっている。

 畑と言えば大したものに聞こえるが、実質は家庭菜園に毛が生えたようなものだ。

 新鮮な季節のものが手に入って、ちょっと得したような気持ちと、文字通り労力が実った満足感を得られる。その程度が精一杯の、商売にも何にもならない畑だ。


 だからといって、愛着がないわけではない。手狭に個人でやっている分、逆に一層強いかもしれない。

 なのでその畑が踏み荒らされ、もうじき収穫だった作物が盗まれた時、それはもう頭に来た。警察へも連絡はしたのだが、犯人を見つけるのは難しいだろうと言われてしまった。


 腹に据えかねていると、その日の内に話を聞いた婆ちゃんがやって来た。何を思ったのかもぐさを携えている。


「悪いのを持ってきたから安心しな」


 言って婆ちゃんは畑に出向き、盗人の足跡にきゅうを据えた。

 もぐさは混ざりものが多い、つまり質の悪いものほど、耐え難い熱を出す。腹いせをしてやったから、これで諦めてさっぱり忘れろという事だろう。

 そう思ったらいつまでも拗ねているのが馬鹿らしくなって、その後は婆ちゃんを引き止めて、いつもより豪勢な晩飯にした。



 数日して、近所の主婦が病院に担ぎ込まれていたのを知った。

 一体何をどうしたものか、両足の裏にひどい火傷をしていたそうだ。

 この事を婆ちゃんに話したら、きっと得意げな顔をするだろうと思った。

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