遡る

 祖母は年を重ねて子供のようになってしまった。

 童心に返るなどという表現があるが、まったくその通り。今の祖母はまるで童女のようにあどけない。

 記憶もその仕草に則して、近年のものから順にこぼれ落ちていった。私を、母を忘れ、父はまだ6才なのだと言い張った。

 ただ人とは不思議なもので、今をなくした分だけ、過去の記憶は色鮮かに蘇るようだった。祖母は数十年も昔の話を、克明に語って周囲を驚かせた。

 実子である父に確認したところ、それらは全て実際にあった事であるらしい。


 しかしこの頃、祖母のそれはとみにひどくなった。

 最近語るのは明治の御一新の事でである。一世紀半も昔の話だ。

 やはり見てきたように鮮明に話すので、両親もすっかり首を傾げている。それはもしかすると、前世の記憶というものなのかもしれない。

 祖母が一体どこまでさかのぼってしまうのか、それがどうも気がかりだ。

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