電話ボックス
駅前まで車を回してくれるいう話であったのだが、友人が一向に現れない。
春先とはいえ夜風は冷たい。待ち合わせ場所をそう離れずに凌げる場所はないかと道路沿いを眺めると、電話ボックスが目に止まった。
このまま吹きっさらされるよりいいと駆け込んだ。
携帯電話主流のこのご時世だ。公衆電話を使いたがる人間なぞそうはいないだろうし、もし外に立つ者が現れたらすぐに譲ればいい。そう思った。
やはり遮蔽があると、体感温度は格段に違う。
ぬくぬくとまたしばらく待っていると、ようやく友人から、携帯電話に着信が来た。
「すまん、やっと着いた。今どこにいる?」
気づけばいつの間にか、すぐ脇に奴の車が停っていた。電話ボックスの中というのは盲点になっているのだろう。俺を見つけられずにいるらしい。
遅刻の仕返しに、ちょっとからかう気持ちになった。
「目の前にいるぞ?」
「? どこだよ?」
運転席の友人が、きょろきょろと辺りを見回す。やはり分からないようだ。
おかしさをこらえて、
「ここだよ」
ボックスから出て手を振ると、友人はひどく怪訝な顔をした。
「お前、今どこから出てきた?」
「どこからって、そこの電話ボ……」
電話越しのまま問う声に、背後を示しそうとして指先が戸惑う。
振り向いたそこには、ただ街路樹が揺れるばかりだった。
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