傘の内

 急な雨は電車を降りても止まなかった。

 俺は駅前のコンビニに入り、買い物もせずにすぐに出た。当然、傘立てから適当な傘を拝借するのが目的だ。ちょっとの雨を凌ぐのに金を払うなんて馬鹿らしい。

 それから帰り道をいくらか行くうちに、ひどく居心地の悪い気分になってきた。

 どこからか視線を感じる。誰かが、しかも一人ではなく複数が俺を見ている。見られている。そんな感覚があった。

 けれど立ち止まって見回しても、周囲には人っ子一人いない。

 釈然としないまま歩き出そうとた時、俺は気づいた。


 目玉があった。

 沢山の目玉が、開いた傘のその内側に。小間の布地にびっしりと。

 その全てが、じいっと俺を見下ろしていた。

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