渡る

 夕刻、犬の散歩をしていた。

 犬は何が気に入ったのか、しきりに地面の匂いを嗅いでいる。ぼけっとそれを眺めていると、きしきしと何かが軋む音がした。

 音は意外に近い。なんだろうと見回すが、しかし誰もいない。

 空耳であったのかとまた地面に目を落とすと、俺の影に被さって、何者かの影が落ちている。


 はっと振り仰いだら、俺の頭上の電線を、着流しの男が渡っていくところだった。

 先程の軋みは、その一足ごとに起きているのだった。

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