奇

結婚できない女

　イギリス旅行から帰ってくると、身の回りにおかしな事が起き始めた。

　あまり公言したくはないが、私はずぼらな性質（たち）だ。脱いだ衣類に読みさしの雑誌、食べかけ飲みかけの飲食物までもを含めて、よく物を出しっぱなしにする。

　それが、いつの間にやらきちんと片付けられているようになった。

　自分では何をした記憶もないのに、どこもかしこも整理整頓されていく。しかも気づけば隅々にまで掃除が行き届いている。

　更にはゴミも分別されてまとめられて、それどころかきちんと回収日に出されている。

　楽ではあるけれど、どう考えたっておかしい。

　霊感のあるという友人に相談してみると、「毎晩寝る前に牛乳をコップに一杯供えておきなさい」と言われた。

　それでこの現象が止むのかと思いきや、そうすればソレがずっと居てくれるのだという。

　確かにありがたい存在ではあるが、でもこのまま居着かれるのは困る。私がどんどん駄目人間になっていってしまう気がする。もしかするとこの怪奇現象は、それこそが目論見であるのやもしれない。なんて恐ろしい。

　大層煩悶（はんもん）した挙句、快適さに負けた。

　牛乳儀式は今も続けている。それは朝には、コップごと綺麗になっている。