餌付け

 帰ってくると家の前に小蛙が居た。

 小春日和に惑わされて、うかうかと目を覚ましてしまったやからだろうか。のたのたと鈍く、緩慢な動きで這っている。

 眺めるうち、不意に嗜虐心しぎゃくしんが起こった。このところ多忙で気が休まる暇もなく、その八つ当たりめいた心だった。


 鈍間のろまなその生き物をつま先でつついて転がして、すぐ脇の排水溝に蹴り込んだ。

 終えてしまってから、少し悔いた。残酷なだけで鬱憤うっぷん晴らしにもならない、無益極まりない行為だ。

 だがしかし、してしまった事は元に戻らない。後で忘れずに靴先を拭こうと思いながら背を向けた時、


「また頼む」


 溝の中から言う声がして、咀嚼そしゃく音がそれに続いた。

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