呟かれる

 最寄り駅の近くに浮浪者が住み着いている。

 いつから居るのかも、どこから来たのかも定かではない。

 誰かも判らないが、誰も気にしない。そんな路傍の石のように、ただいつも居る。

 にごった目で座り込んで空を見上げて、低く何かを呟いている。


 酔って帰ったある夜、よせばいいのに俺は、その呟きに耳を傾けてしまった。

 繰り返しつむがれていたのは意味のある文章ではなく、ただひとつの人名だった。

 そしてどうにも嫌な事に、それは俺の名前と同じなのだった。

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