はめられる

 中学に上がったか上がらないかの頃だったと思う。

 年末、大掃除を終えて一息入れていると、見知らぬ後姿が廊下を行き過ぎるのが見えた。すわ泥棒かと後を追うと、それは白髪頭の見知らぬ婆さんだった。

 婆さんは仏間に入り込むと、指先をめては障子紙にぐりぐりと押し当て、穴を開けていく。張り替えたばかりだってのになんて事をするんだと頭に来た。

 怒鳴りつけようとしたその時、がつんと後頭部に衝撃が走った。


「こら、なんて事すんの! 張り替えたばっかりなのよ!」


 振り向くと母親が鬼のような形相で俺をにらんでいる。

 いやあの婆さんが、と指差そうとしたが、目を戻すと仏間には誰もいなかった。結局障子破りの犯人は俺という事にされて、大変な説教を喰らった。

 大人しくうつむくふりで聞き流していると、障子の穴から誰かが覗いているのに気づいた。俺と視線が合うと、その目は愉快そうに細められる。

 さっきの婆さんの目だと、すぐに判った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る