届く
家に帰ると、腕が届いていた。
人のではない。小さな、人形の腕だ。
私の物ではない。人形を愛でる趣味はない。そもそも一人暮らしの我が家に、受け取った覚えがないそんなものがあるのがまず問題だ。
だがそれが自室の卓上にあるならば、誰かが意図して置いていったという事で、ならばその事象は、「届いた」と表現する以外にないと思う。
しばらく思案してから、指紋がつかないようにビニール袋に放り込んでその日は眠った。
翌日。施錠を確認してから仕事に出たのだけれど、やはり帰ると腕が届いていた。
昨日のものと見比べる。するとそれは左腕で、今日のは右腕である事が判った。
これから手足腰胴首頭と揃っていって、最後に何かが起こるのだろうか。少し楽しみになった。
更に翌日。届いたのは右腕だった。
次は左腕。その次は右腕。更に右腕。明けて右腕。
左右の数も順序もばらばらのままにひと月が過ぎた。卓の脇のダンボールには、もう数十体分の腕が放り込まれている。
いつまで経っても組み上がらない。
いつまで待っても何も起こらない。
それでも。
家に帰れば、今日も腕が届いている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます