まっすぐ前へ

 メールの返信を打ちながら夜道を歩いていると、背後から足音が聞こえた。

 規則正しい呼吸音もしたので、俺は振り向かずにランナーだろうと見当をつける。追い抜きやすいようにと半歩道を譲った。

 足音はやがて後ろから横へ、横から前へ移行して、そこでふと視線を感じて顔を上げた。


 目が合った。

 にこやかな笑顔だった。

 俺にはランナーの背中が見えている。規則正しい軽快な動作で、彼の体はランニングを続けている。前へ、俺から遠ざかる方向へと走り続けている。

 だが顔はこっちを向いていた。

 顔だけがこっちを向いていた。

 肩越しに振り返る、首だけ振り返るなんて行儀のいい話じゃあない。180度捩れて、完全に体と前後のが逆転していた。

 呆気にとられる俺を尻目に彼は走っていく。ペースを緩めず、真っ直ぐ“前”へ。

 曲がり角を折れて、やがて見えなくなった。

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