双月の蒼
蒼蓮瑠亜
始まり
それは、夜空に浮かぶ二つの月たちがそれぞれの形に輝く夜のことだった。
魔都マクサスの屋敷街に、夜空の月に負けじと明るい光を灯す屋敷が一軒あった。着飾った人々が出入りするその屋敷では、夜会が開かれており、そこには、大魔導師をはじめ、珍しいことに、魔導師協会の重役が揃っていた。そんな大物たちの注目を集めた夜会の主役たちは、会場の奥、小さな寝台にいた。大切に寝かせられた、小さな小さな赤ん坊が二人。よく似た双子の赤ん坊は、その腕に同じような青い貴石のブレスレットをはめていた。
この日、この家では、当主に待望の子供が出来たことを祝う宴が開かれていた。当主には他に子供がいないことから、そのどちらかが将来の当主となる。その上、この二人は、珍しい二重満月ーー二つの月が両方満月となる日ーーに生まれ、すでに高い魔力を持っていることがわかっていた。もしかしたら、次の大魔導師となるかもしれない子供たちに、マクサス中の人々が注目していた。
そんな夜会も佳境を迎え、小さな子供たちは乳母によって寝室に戻された。そして、招待客も徐々に帰り始める頃。帰り始めた客の流れに逆らって、何気なく広間に入ってきた、黒髪の青年が一人。この夜会には身分の明らかな招待された客しかいない。身なりも悪くなかったことから、その青年も招かれた客だと、誰も見咎めることはなかった。
その青年は、何気なく広間の中央に向かいながら、そっと何かを呟いた。その瞬間、入口の方で大きな爆発が起こった。驚いた客たちは、一瞬動きを止め、大広間に入ってきた煙に気づくと、煙から逃げるように右往左往し始める。そんな中、青年は妙にゆっくりと広間の中央に立ち、再び、小さく何かを呟いた。すると、今度は大広間の中央に飾られたシャンデリアが、大きな音を立てて青年の目の前に落下してきた。その蝋燭の火が、テーブルクロスに飛び、テーブルから火の手が上がる。客たちはその火に驚き、さらに慌て、出口に殺到した。
突然の事態に、当主は警備に消火を急がせ、客たちを安全な場所へと誘導するよう指示を飛ばした。そんな騒然とした中に、黒髪の青年は楽しそうに笑みを浮かべ、奥にいる当主を見ていた。
やがて、当主もその視線に気づいて青年に目を向けた。そして、青年の漆黒の瞳と目があった瞬間、息を呑んだ。しかし、青年は当主の様子に構わず、楽しそうに唇を歪めて小さく呟く。
『水は、暗き闇に捕らわれ』
その呟きが聞こえたと思った瞬間、青年の姿は一瞬にして掻き消えた。その後、当主は青年を探させたが、見つかることはなかった。
結局、火はすぐに消され、入口の爆発も大したことはなく、怪我人はいなかった。招待客を無事に帰し、ほっとしていた当主夫妻だったが、それは悲劇の始まりでしかないことにすぐに気づいた。
ーーそしてその夜、当主夫妻はもっとも大切なモノの一つを無くしたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます