クリムゾンプラン~安心できない学院生活~

浅田湊

プロローグ

 スクープだ。学校で噂になっていた幽霊の正体を突き止めた。

 首から下げた一眼レフを抱きしめながら闇夜の学校を一人の女生徒が走っていた。

 幽霊の正体見たり、枯れ尾花。まさか、学校を騒がせていた幽霊騒動の正体がこの学校の学生の一人だったとは驚きだ。これで次の学校新聞の一面は決まり。

 そんなことを考えながら階段を駆け下りていると足が何かにひっかかり、階段を転がり落ちる。足を捻ったのかうまく歩けない。額からは血が流れ落ちていた。

「こんばんわ。ネズミさん――好奇心は猫をも殺すってことわざをご存知かしら?」

 聞き覚えのある声が背後から聞こえてきた。

 いや、あり得るわけがない。そんな筈は絶対にない。

 なぜなら、その声は私が知っている人間の声。だが、誰なのか思い出せない。

 その謎の声に振り返るとそこには誰かが立っていた。だが、顔は暗闇に隠れ此方からは確認する事は出来ない。分かるのは同じ学生服を着ているという事だけだ。

 時間は既に深夜。寮生は基本的に出歩ける時間ではない。けれども、目の前には誰かがいる。いたずら? そうに決まっている。こんな幽霊騒ぎの噂を流した連中が私をビビらせようと色々と計略を張り巡らせているに決まっている。そうと決まれば――。

「そんなモノで私が驚くと思ってる? その化けの皮を……えっ!?」

 カメラを構え、バインダー越しに見たその光景に私は言葉を失ってしまう。

 私を驚かせるにしても、これは流石に手が込み過ぎている。まるで、夢でも見ているかのようだ。そうだ。これは悪い夢に決まっている。そうとしか考えられない。

 そこにいたのは月明かりに照らされた一人の女生徒。問題はその顔だ。

 なぜなら、そこにいたのは紛れもない。鏡写しの私だったのだ。

 バインダーから目を放し、裸眼で確認するが瞳に映る光景は変わらない。

 その信じがたい光景に私は思わず持っていた一眼レフを床に落としてしまった。

 その事に数瞬遅れで気付いた私は当然、床を転がっていくソレを回収する為に視線を一眼レフの方へと移動させる。その瞬間、私の背筋は一瞬にして凍り付いた。

「ちょうどいいわ。使い勝手のいい顔がなくて困ってたの。貴女、確か新聞部よね」

 その言葉に私は耳を疑った。確かに校内ではそれなりに知られていると自負している。だが、使い勝手のいい顔とはどういう意味なのか。この女は何を言っているのか。

 その答えは目の前の私の口からすぐに語られる。なんでもないかのように。

「何人かリストアップはしていたのだけど、まさかその中の一人がこうしてのこのこと現れてくれるとわね。色々と手間が省けたわ。面倒事の、ね」

 目の前にいる私はそういって優しく微笑むと私の首筋へとそっと手を伸ばす。

 首筋に何かを突き立てられた事に気付いた時には既に遅く、猛烈な睡魔に襲われる。それに飲まれるまいと抗うのだが、そのまま目の前の彼女へと寄りかかり意識を失った。

「ゆっくりとお休みなさい。二度と目覚める事のない永遠の眠りにね」

 脈が完全に途切れ、死亡した事を確認すると遺体を廊下へと寝かせどこかへと連絡する。

 そして、その連絡が終わると通信機を胸ポケットへと戻し、床に転がっていた一眼レフカメラのメモリーカードに残されたデータを確認した。

 残されていたモノの多くはピンボケした役立たずの写真。しかし、何枚かははっきりと一人の女性の姿を収めていた。その事を確認するとその写真のデータを破棄する。

 残されたのはピンボケした顔のわからない女の写真。その写真を見てとある事を思いつくとその女生徒は一眼レフを大事そうに抱え、目の前で眠る少女の部屋へと歩き始めた。

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