竜玉4
大小様々なテントの間をエリーの後ろについて歩く。
その最中ずっと、ローラはやたらと俺の顔ばかり気にしていた。俺より前に進み出て顔を覗き込んでみたり、横からじっと俺の顔を見たり、挙動不審だった。いい加減ムカついて「何か」と聞くと、
「貴方、有名人なのね」
と気の抜けたような言葉が返ってくる。
「別に。悪目立ちしているだけとも言いますが」
有名にも良い有名と悪い有名があるわけで、俺はどちらかというと。そこまで言いかけて止めた。ここまできて、せっかく克服しかけているネガティヴを復活させるのもどうかと思ったからだ。
見覚えのある大きめのテントへ入っていくと、また中がやたらとざわついた。口々にローラの名前を呼び、その中に少しだけ俺の名前を呼ぶ声が混じる。
「奥へどうぞ」
区切られた一角に案内され、急ごしらえの応接セットへ促された。白いテント地に囲まれたそこは六畳間程度の広さで、余計な視線を遮断してくれるのがありがたい。エリーは飲み物を用意しますと一旦外に出た。その後遠くで話し声が続いていることから察するに、どうやら誰かに俺たちのことを話しているらしい。
それにしても。
「遅いわね。どうしたのかしら」
時間がないと言っていたローラは、エリーの消えた方をチラチラと覗き込んでいる。
「飲み物を取りに行っただけにしては」
少しずつイライラが表情に出てきているローラが気がかりで、俺は席を立った。
「様子を見てきます」
そう言って応接間から出ようとした瞬間、無数の足音がこちらに向かってきているのに気が付いた。
様子がおかしい。
俺はローラに目配せし、咄嗟に彼女の前に立ちはだかった。
バッと仕切りのカーテンがめくれ、ザザザッと重装備の戦闘員が雪崩れ込む。何だ。状況が飲み込めず眼をキョロキョロさせている間に、俺は両腕を掴まれ、口を後ろから塞がれていた。そのまま屈強な男どもに取り押さえられ、完全に自由を失う。
ローラは。
彼女は無事なのか。
視線を動かすと、彼女にも何本もの銃が突きつけられていた。
「何ごとですか!」
震えた声でローラが叫ぶ。
「何ごと、とは」
聞き覚えのある声がする。この声は確か。
「ライル、どういうつもりですの」
――やはり彼か。市民部隊第一部隊隊長のライル。本当に彼とは相性が悪い。
ライルは腕を組みながら、屈強な身体を揺すって悠々と狭い応接間へ入ってくる。
「念のため、ということもあります」
鋭い目を向けるライルを、ローラは悔しそうに睨み付けている。
「本物かどうか、確認できたなら解放しましょう。塔の魔女はおいそれとあちこち飛び回らないものですよ。何かがあればローラ様こそどうなさるおつもりです」
「どうもこうもありませんわ。私はディアナ様とは違う。塔に完全に縛られるようなことはなくってよ。あんな高いところで一人手をこまねいているだけなんて真っ平ごめんですわ。自分にしかできないと思えば全部自分でやる。そのためには塔の護衛なんていくらでも振り切りますわ」
「ではそこの――、彼の正体はきちんと精査なさいましたか」
ライルが俺を睨み付ける。
「彼? リョウのこと?」
「ええ。そうです。あなたは彼をどこの誰だとお思いで」
「だ、誰って。彼は救世主よ。金色竜と共に世界を救おうとする表世界の干渉者。それが一体」
「あの噂の真意を、ローラ様はきちんと精査なさったのかと」
「噂?」
「そう、噂です。おっしゃったじゃありませんか。まさか、あのときの会話をご存じない? とすると、こちらも偽物ということに」
「――フフッ。そうでしたわね。噂、そんなのすっかり忘れていましたわ」
ローラは急に頬を緩めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます