竜になる3
残念なことに、彼からは大量の魔力が失われていて、もうまともな魔法は使えないというのが火を見るより明らかだった。陣だけじゃない。芝山も、ノエルも、レオもルークもジョーも、皆戦っているのが不思議なくらいに力を使い果たしている。つまりもう、頼れる人間は数少ないというわけで。けど、俺一人じゃできることに限界がある。悪いけど、ここはどうにか振り絞っていただいて。
「私が、骸骨どもをどうにかしよう」
ディアナは既に魔法陣を宙に描いていた。その手には長い木の杖。彼女が本気で戦おうとするときにはいつもこのスタイルだ。
魔法陣の文字を読み切るよりも先に魔法が発動し、まずは骸骨兵たちの時間が止まる。それから更にもう一つ魔法を打つ。銀色に光る魔法陣は聖なる光の魔法か。
「私の魔法に見とれてる場合じゃない。凌、お前は美桜を。白い竜を何とかしろ!」
ディアナの声に我に返る。
うっかり、彼女の美しい魔法陣に魅せられていた。
「ああ、わかってる。頼むぜ、ディアナ!」
俺は具体的に何をするとも告げることなく、その場から飛び出した。
崩れた後者の方向に駆け出す俺に、
「凌! アシストって何!」
陣が叫んでくるが、白い竜をおびき出すビジョンなんて本当にどこにもない。強いて一つだけ考えていたとすれば、彼女を止めるために俺自身の安全は無視することくらいか。
走りながら俺は、自分の身体を竜化させていった。腕に足に鱗を纏い、徐々に肌色の面積が減っていく。
『凌、まさかとは思うが』
大人しくしていたテラが、再び頭の中で喋り始めた。
『戻らないつもりか』
せっかくディアナに着替えさせて貰ったのに、竜化に伴って肥大化する身体は、いとも簡単に服を破いた。口が裂け、尾が伸び、鋭い爪が靴さえ壊した。背中に羽を生やし、急所を装甲で覆う。
――竜になる。
白い竜へと成り果ててしまった彼女を止めるには、俺自身が完全な竜となってしまわなければならない。竜化だとか竜人だとか、そんな中途半端な状態じゃなくて、完全なる竜となって彼女を食い止めなければ。
『君は……、何をそんなに焦っている。竜にならなくったって、止める方法はいくらでもあるはずだ。止めるという選択肢の他にも、別の何かが』
ダメだ。
俺は何が何でも彼女を救う。
いくらディアナが白い竜を殺せと言っても、彼女が自分を見失ってただの獣になってしまったのだとしても、俺は美桜を見捨てること何て絶対にできない。
『世界を滅ぼそうとしていたとしても?』
それは彼女の意思じゃない。全てはドレグ・ルゴラの。彼女はその犠牲者。
『君をこの世界に導き、巻き込んだ張本人だぞ?』
わかってる。
だからこそ。だからこそ、なんだ。
俺は、彼女の居なくなった世界なんて見たくない。
寂しさの中で必死に立っていた彼女を、どうして責められようか。
誰にも言えない悩みを抱えながら、気丈に振る舞っていた彼女をどうして追い詰められようか。
成功できるかどうかもわからない。けれど、全力で挑まずに後悔はしたくない。
もし、白い竜となった彼女を止められるとしたら俺しか居ないし、俺以外にこんな無謀な人間は存在しないだろう。
テラをアウルムと呼んだ過去の干渉者がどんな気持ちで竜化していったのか、俺にはわからない。そこまで追い詰められたのには何かしら理由があったのだと思うし、そうしなければかの竜には勝てなかったはずだ。
完全なる同化というのが果たせているのかどうか、何度も同化しては分離し同化しては分離しを繰り返している辺り、繋がりが浅すぎるのかもしれないと思うこともある。けれどもそれはもしかしたら心の問題で、俺に未だいろんな迷いがあって、全てを失ったなどと言いながら、やはりディアナの言うように、何か未だ犠牲にしていないものがあって、だから簡単に同化が解けてしまうのだとしたら。
俺は、俺自身の存在を、自分の命を、残している。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます