いざ洞穴へ4

 洞穴の中は基本的に一本道らしかった。時折右に左に枝道があるが、その先はどれも袋小路状態で、結局元の道へ戻ってくることになるらしい。アッシュたちは何度も袋小路に迷い込まないよう地図を作りながら進んでいたようだ。手元の地図を見ながら、次は右、次は左と的確に教えてくれる。

 奥へ奥へ向かうほど、洞穴のひんやりした空気が頬に纏わり付いた。魔除けが効いているのか、小さな魔物は姿さえ見せず、俺たちは安心して奥へ進んだ。

 洞穴の入り口こそ小さかったが、中は広い。天井から垂れ下がった鍾乳石が地面にまで届き、単純なはずの道を迷路のように見せている場所に出くわしたり、地底に広がる泉から吹き出る奇妙な気体を横目に、息を止めながら走ったりもした。

 二時間ほど進み、足が棒になりかけたところで一際広い空間へ辿り着く。ここからもう少しだけ進んだところに分かれ道があるらしい。


「一旦休もう」


 アッシュはそう言って俺たちを足止めした。

 大きな石を椅子代わりにして座り、しばしの休息。持ってきていた水分と食料を補給する。

 モニカは杖の先から光を切り離して宙に浮かべ、疲れを取ろうと何度も肩を回していた。

 ノエルも荷物をよっこらせと下ろし、左右のバランスを直すべく、上半身を左右に捻っていた。


「モニカの魔除けが思ったより強力で助かった。俺たちの時は、ここまで辿り着く間に何度も魔物と遭遇していた」


 エルクが言う。


「お役に立てて光栄です」


 モニカはあくまで謙遜していたが、確かに彼女なくしては、ここまでスムーズに進むことなどできなかっただろう。


「塔の魔女の候補生だったんだから。当然だ」


 空気を読まずノエルが言うと、アッシュとエルクはヒューと口笛をあげる。しかしモニカはノエルの言葉が気に食わなかったらしく、どうしてそういうことを言うのとばかりに睨み付けていた。


「いくら力があっても、私は塔の魔女にはなれなかったのですから、今は単なる能力者ですよ。変な肩書きはよしてください。それより、ここから先に、くだんの竜がいるのですね?」


「ああそうだ。悪いが、俺たちは顔を覚えられてしまっている。君たちが三人で行って、話を付けてきてくれないか」


 アッシュの言葉に、俺とモニカ、ノエルは息を飲んだ。


「さ、三人でですか?」


「俺たちは前回、竜の気を損ねてしまったからね。頼みづらいというか何というか……。あの竜が言うには、『必要ならば誰かに頼まず自分で足を運ぶものだ』と。ディアナ様の命令で石を貰いに来たのだと何度説明しても通じなくて……」


 なかなか、頑固な竜なのだろうか。


「ディアナ様もかなり厳しいお方だが、優しさがある。思いやり、先を見越して厳しい言葉をかけてくださっているのだとわかるからこそ、俺たちはみなディアナ様を敬愛している。しかしあの竜は……。倒せば良いのなら倒してしまいたいが、強すぎる。何よりも竜の卵と石を守っているというのだから、倒してはいけないのだ。きちんと向き合って納得して貰わなければならないらしい。ここまで数時間で辿り着いたからといって、その先目的を果たすのに同じ時間を要すればいいというわけではなかった。リョウと言ったかな。救世主として君は、あの竜にどう接するか。しかと見せて貰うよ」


 アッシュはそう言って、エルクと顔を見合わせた。

 俺はただただ、背中を駆け上がってくる妙な予感に堪えるばかりだった。

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