意外な結末2

 結界の外で観戦している側からしたら、無駄な動きが多すぎだろうな。けど、どうにもこうにも戦い方がわからないんだから仕方ない。俺は俺でがむしゃらに動くだけだ。

 帯電した剣を握り、構える。目標は岩オオトカゲ。雷を避けるようにして俺と雷鳥から離れていた、ということは雷が苦手? あくまで仮定だが、やってみる価値はあるか。

 地面を蹴り、トカゲに向かって突き進む。さっきの反省も踏まえ、炎を避ける対策も講じねばならない。シールド魔法。常に自分の前にシールドが現れているようなイメージで。キャンプでドレグ・ルゴラと戦ったときも、この幾重にも連なったシールドが炎を防いだ。走りながらの魔法陣は難しい。イメージを高める。俺の前には薄くて見えないシールドが沢山ある。それをどんどん突き抜け、破りながら前へ進んでいくんだ。

 パリンと、耳元で音がした。

 身体が透明な薄いガラスに当たり、割れていく。当たったガラスは消え、又進行方向には新しいガラスの板が出現していく。

 岩オオトカゲは俺の存在に気付き炎を噴射したが、透明なシールドはこれを上手くはじき返す。余裕だ。俺には当たらない。けど、このまま正面突破じゃ、また炎の餌食となる。上へ――、見えない階段を駆け上がり、岩オオトカゲの真上へ行くんだ。一歩一歩、階段を駆け上がる。徐々に高度が増す。


「一気に行くぜ!」


 岩オオトカゲめがけ、俺は思いっきり剣を振り下ろした。電流を帯びた剣が、トカゲの背中を狙う。剣先を下に向け、自分の身体ごとぶつけるつもりで落ちていく。落ちて、落ちて、刃先が届き――。

 折れた。

 ゴム状の背中に弾かれ、俺は地面に放り出された。固い尻尾がぐるんと周り、はじき飛ばされる。

 嘘、だろ。岩オオトカゲって、岩地にいる大きなトカゲって意味じゃないのか。岩ぐらい硬い皮膚を備えたトカゲ?


「クソがッ」


 こんなのと戦って勝てだなんて、どうなってんだ。

 もしかして、本格的に竜化しなければ勝てない相手だとでも言うのか? 

 確かにピンチの時には常に竜化していた気もする。俺一人の力じゃ、まともに戦えなくて、いつもテラに力を借りていた。昨日の巨人だって、竜化したからこそ勝てた。自分の意思で自由に変化へんげできないのが悩みどころだが、してしまえば何だってできた。

 俺の評価は竜と同化しているという部分込みでなされるはずだ。この世界を救うという使命を背負わされた以上、俺だってその期待に応えるべく努力はしてきたが、如何せん力の使い方がわからない。人に見られながら戦う、評価を受けるという心的要因が働いているとはいえ、上手く立ち回れていないのは事実。理想と現実のアンバランスさを見せつけることで、何かしらの打開策を見いだしてもらえるなら、もしかしてその方が得策、……か?


「し、仕方ない。竜化する。ちょっと時間をくれ」


 肩で息しながら、俺はマシュー翁がいるはずの空間に顔を向けた。


「時間が必要なのか。仕方あるまい。魔物の動きを止めよ」


 待たせるなんて、ホントの戦いじゃ無理なんだが、今は許されるのじゃないかと言ってみて正解だった。マシュー翁の指示で魔物が移動を止める。


「助かる」


 礼を言って、俺はゆっくりと深呼吸した。

 強く願えばとディアナは言ったが、早々簡単にできるものではない。今までも、本当にピンチになってからじゃないと竜化はできなかった。

 頼むぜ、テラ。鑑定とやらにはどうしても力が必要なんだ。協力してくれよな。

 目を閉じ、額に埋められた竜石に精神を集中して、竜の力を解放させる。自分の身体に竜の力が行き渡るのを強くイメージしていく。腕に足、身体。それから背中の羽も。

 竜化さえできれば、あんな敵どうにでもなる。

 それこそ、ランクもA以上確定に違いない。

 竜の力……、解放。

 俺は何度も強く願った。が。


「どうしたのじゃ、凌殿」


 マシュー翁がいち早く異変を感じた。


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