カオスロード

おめが(っ'ヮ'c)

おはよう魔王

平原にそびえ立つ古びた城、その一室。

朝の陽ざしが窓から差し込むのを感じ、ベッドで眠っていた一人の青年が目を覚ます。

そして、その視界にこちらをのぞき込む一人の少女の顔が飛び込んできた。


「おはようございます、ご主人様」


少女はにっこりと微笑みながら挨拶をした。


「ああ、おはよう。ブラオ」


青年は微笑をしつつ、目の前の少女―――ブラオに挨拶を返した。



《*》



クローゼットを開け、寝間着を脱ぎ捨てて着替える青年。まだ少し眠そうな顔つきである。

その背後には彼が脱ぎ散らかした寝間着を片づけるブラオがいた。彼女は青年―――アーベントに仕えるメイドである。


「じゃあ、行くか」


「あっ、待ってくださいよ~!」


私服へと着替え終わったアーベントが扉から出ていくのを見て、ブラオも慌ててその後を追った。



《*》



長い廊下で二人並んで歩くアーベントとブラオ。

ブラオが口を開く。


「ご主人様、今日は何か予定がございますか?」


アーベントが答える。


「いんや、まだなんも考えてないな」


「そうですか」


「まあ、飯食いつつ考えるわ」


軽い様子で受け答えしつつ、食堂へ向かった。



《*》



「おはようございます、アーベント様、ブラオ」


食堂に着いた彼らを初老の男性が出迎えた。


「おはよう、ゲッカー」

「おはようございます、ゲッカー様!」


アーベントは淡々と、ブラオは元気よく、対照的な返事をした。

食堂には多人数で食事ができるような大型のテーブルと複数の椅子が置かれている。アーベントは最前列に座った。


「今日のメニューは?」

「魔力オムレツでございます」


執事のゲッカーは指を鳴らすと、テーブルの上に朝食がどこからともなく出現した。見た目はオムレツとスープ、サラダのセットだがいずれも本物ではない。空気中を漂う魔力を固形化し、それを材料に人間の食事を模して作られたモノだ。ちなみに魔力を固形化する装置はこの城の厨房に設置してある。


「では私も、馳走になりましょう」


突如、ゲッカーの姿が揺らぎ、その顔がトカゲのように変わった。肌も爬虫類の鱗に覆われ、長い尻尾が生えた。老紳士がいきなりタキシード服のトカゲに変わったにも関わらず、アーベントは特に驚きもせず、


「いちいちその姿に戻る必要あるか?」


と聞いた。


「この姿の方がくつろぎやすいのでございます」


トカゲ執事も落ち着いた様子で答えた。


ゲッカーは人間ではなく、リザードマンである。

彼はアーベントの父親の代からこの城に執事として仕えている魔物なのだ。


ゲッカーがそうであったように、アーベントやブラオも人間ではない。

人ならざるモノ―――魔物である。


そして、その魔物の頂点に立つと言われる魔王。その中の一人がアーベントだ。


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