第43話 最終話 戴冠式

 予想通り諸侯たちの話し合いで俺が王位を継ぐことになった。

 俺は若すぎるので後見人がつくことになった。

 後見人はグレイじいちゃん。

 なんだか王制を好き放題する悪の摂政を倒せみたいな話になりそうだが、そんなことはない。

 要するに軍事部門のオブザーバーだ。

 政治部門もいろいろ名前が挙がっている。

 基本的にバックがグレイじいちゃんでギュンターを子分にしているので、文官が好き放題暴走することもないだろう。

 俺も改革改革言う気はない。

 戦争も俺個人はする気はない。

 どうなるかはわからないが。

 戦争は雰囲気とかの問題がある。

 開戦気運が高まって諸侯がみんなやる気になったら俺にはどうもできない。

 責任だけは俺の担当だ。

 勝っても個人的にはいいことないよ。

 でも負けたら首ポーン!

 なんだろう……この圧倒的不公平感。


 さて、俺は王位を継ぐにあたって戴冠式というのをやることになった。

 僧侶の偉い人から王としての正当性のお墨付きを貰うというセレモニーだ。

 さてさて、そこで例の『王の剣』が必要になる。

 ただし王家が使っていたのは偽物の方。

 俺は本物も抑えてあるのだ。

 わーおカッコイイ!

 こりゃハーレムも作れちゃうぜ!!! フィーナに馬乗りにされて殴られそうだから絶対に口にしないけど。

 とにかく俺はこれで王になるのだ。


 そして一ヶ月後。

 俺は戴冠式に来ていた。

 一ヶ月の準備期間でさぞかしド派手な戴冠式になっているだろう。

 ……特にこの格好だ。

 俺が戴冠式に挑むその格好は全身真っ赤なシャ○専用スーツにアホっぽいマントとピカピカのブーツだ。前回の○ャア専用より金糸が入ってさらに悪趣味になっている。

 きっとあのヘルメットを被らされたらキレて暴れていただろう。


 俺は赤い絨毯をエレガントぶって歩き法王とかと名乗っている偉そうな坊主の前へ行く。

 俺は法王によって頭に王冠を載せられる。

 神の祝福がどうたらと宣言されると大きな拍手が俺を包む。

 なにこの晒し者状態。

 そして剣が俺に渡される。

 俺は神妙な面持ちで剣にふれ……その時だった。


「させるかあああああああああ!」


 男が叫びながら俺に向かってくるのが見えた。

 やっぱりだよ!

 やっぱり仕込んでやがったよ!!!

 親父だ。

 親父の仕掛けた最後の試練に違いない!

 俺は法王を突き飛ばし、王の剣のレプリカを無視してスタコラサッサと玉座へ走る。

 そして玉座の裏を開けて本物の『王の剣』を取り出す。

 俺は折れた剣を修復していた。

 俺でも持ちやすい長さに削ったのだ。

 なあに、重要なのは柄だ。

 柄にはハイランダーの長としての証である紅玉ルビーが嵌め揉まれていたのだ。

 と言っても前世のような超絶カット技術はない。

 赤いだけで紅玉はくすんでいた。

 俺も最初は「汚えガラス」だなとツッコミを入れてギュンターと父さん、それにグレイじいちゃんにまで怒られたのだ。

 俺は王の剣を構える。


「あ、あれは!」


「なんということだ! 本物の王の剣だ!」


 どこからともなく声が聞こえる。

 仕込みもばっちりなのだろう。

 あーあーあーあー!

 死んでもなお俺を陰謀に巻き込むの!

 そういう態度なのね。こんのクソ親父いいいいいいいぃッ!!!

 今の二人! お前ら顔憶えたからな!

 絶対にあとで嫌がらせしてやるからな!!!

 男が剣をこちらへ向けた。


「この少年……いや悪魔は王位を簒奪し……」


「おどりゃあああああああああッ!」


 俺は男が演説中に斬りかかった。

 焦った男は俺の剣を避けた。


「喋っている途中に攻撃するとはなんたる卑劣漢!」


 うっせえ! ボケが!

 もはや俺はギュンターとの戦いで実戦に対する心構えというものができていた。

 こんなアホに取られる命はない。

 俺は口笛を吹いた。

 すると地鳴りがし、玉座の間のドアが吹っ飛んだ。


「ぶもおおおおおおおおおおおッ!」


 ドアから入った来たのは巨体だった。

 拳王様が乗っているような馬。

 ジュリエットだ。

 ギュンターに無理を言って借りたのだ。

 お前ギュンターのものは俺のもの。俺ものは俺のもの。

 ジュリエットは俺の方へ一心不乱に走ってくる。

 ジュリエットの乱入で貴族や僧侶がパニックになり逃げ惑う。


「え? ちょっとなにそれ」


 男がつぶやく。

 残念ながらお前はもう死んでいる。


「成敗!!!」


 俺がそう言うと男は逃げ出した。涙目で。


「や、やめて! たすけ……ひいいッ! 来るな!!! うぎゃあああああああ!」


 涙と歯が数本が空を飛んだ。

 ジュリエットの体当たりを受けた男がゴミのように吹っ飛んだのだ。

 そしてジュリエットは俺の所に来ると俺の髪の毛をむしゃむしゃ甘噛みする。

 ジュリエットはその凶暴な姿からは想像できないが甘えんぼなのだ。

 なんか俺って動物に好かれるのよね。

 もうすっかり仲良しだ。

 もしゃもしゃもしゃもしゃ。

 もしゃもしゃもしゃもしゃ。

 ジュリエットさん。禿げるのでやめてください。

 ちなみに賊を捕まえるために動いていたローズ伯爵やギュンターが呆れたという視線で俺を見ていた。

 よしここで一発オチをつけるか。


「一件落着!!!」


 俺が胸を張るとゲイルがこちらに視線を送ってきた。

 なになに……


「親子水入らずで話がある。あとでツラ貸せ説教するから」


 酷い!!!

 ゲイルたちが思った通り、俺はハプニングがあったとはいえ自らの戴冠式を台無しにした。

 半分以上は悪意があったので普通だったら怒られるだろう。

 だけど世の中ってのは不思議だ。


「さすが……殿下……」


 仕込みではない声が逃げ回っていた貴族達の中からした。


「あの騒ぎでも恐れずに賊を倒してしまったなんて……」


「まさに龍の子」


 ほへ?

 俺がアホ面晒していると、ぽつぽつと拍手がしてきた。

 拍手は次第に大きくなり、会場を包む。


「あはははははは!」


 もう笑うしかない。

 やけになった俺は両手を挙げて諸侯たちにアピールした。



 さて俺は王になってやることがあった。

 エリック叔父貴の追放だ。

 でも叔父貴をただ追放するのは粋じゃない。

 シェリルもランスロットも幸せにしなければならないのだ。

 たとえ俺がどんなに辛くてもな……


 産後間もないシェリルが動けるようになるのを待った三ヶ月後のある晴れた日、俺は馬車の前でシェリルを待っていた。


「レオン……いえ、陛下。このたびはご温情を賜り誠にありがとうございます」


「あの……母上。いつも通りで結構ですよ」


「でも……私は許されないことを……」


「それでもあなたは私の母上です。私を守ろうとしてくれた」


 俺はシェリルに抱きつく。

 シェリルは涙を流した。


「ごめんね! ごめんね!」


 シェリルは俺を抱きしめながら泣いていた。

 俺は最高の手を選んだ。

 俺はシェリルをあきらめたのだ。

 どうしたって今の状況じゃランスロットを守り切るのは難しい。

 俺は病気療養という名目でシェリルとランスロットをグレイ公爵領、つまりじいちゃんの所に逃がした。

 弟には母親が必要だ。

 俺はお兄ちゃんだ。

 だからランスロットのために俺は我慢する。

 そしてランスロットの命を守るためには番犬がいる。

 俺はシェリルの護衛としてエリック叔父貴を任命した。

 ライリーも一緒だ。

 彼らなら死にものぐるいで守ってくれるだろうし、ランスロットも父親が側にいた方が良いだろう。

 だから俺は寂しくなんてない。

 なあにほとぼりが冷めたらまた会えるさ。


「いいんですよ母上。それよりもランスロットを大事にしてください」


「ごめんね」


 最後に俺を強く抱きしめるとシェリルは馬車に乗り行ってしまった。

 去りゆく馬車を眺めているとゲイル、父さんがどこからともなく現れた。


「陛下。いいのですか?」


「父さん。二人きりの時くらい陛下はやめてください」


「レオン。いいのか?」


 シェリルのことだ。


「いいんですよ。俺が我慢さえすれば全てが丸く収まります」


 俺はなんとか人生を狂わされた二つの家族を救うことに成功した。

 一番悪い犯人も幸せにすることができたとも思う。

 最高のハッピーエンドなのだ。

 だからこれくらいで泣いたりしない。


「レオン、泣いてるのか? 胸を貸すぞ」


「ないてなんかいまぜん!!!」


 俺は泣いてなんかいない。

 俺は涙を拭くと気持ちを落ち着けた。

 俺が落ち着くまで父さんは俺の肩に手を置いていた。

 俺が落ち着くと父さんは言った。


「これからどうする?」


「そうですね。まずは学校を作ろうかなと」


「どんな学校だ?」


「騎士や研究者を養成する学校です。どうせ私には厳しい特訓があるんでしょ? 一人だけやらされるなんてずるいじゃないですか! 貴族の子弟全員に俺の苦労を味わわせてやる!!!」


 もちろんただの私怨だ。

 これに関しては箱物だし、素晴らしいアイデアだと誰も文句を言わなかったので後に設立されることになる。

 そこでまた事件に巻き込まれるとは俺はその時欠片も思ってなかったのだ。

 だがそれはまた別のお話だ。


 風が吹いた。

 もうすっかり季節は変わっていた。

 俺は父さんに微笑む。

 父さんは俺と手を繋ぐ。

 その手は大きくて暖かかった。


 ~完~

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