見えぬ彼女と僕の夏
沢丸 和希
プロローグ
貴方は『第五十八回 全国高校生料理コンクール』にて、優秀賞に入賞されました。
またか。
家に届いた通知を眺めながら、僕は大きな溜め息を吐いた。
そんな息子の態度に、両親は苦笑いを浮かべている。
「優秀賞だって凄いことじゃない」
そんなの分かってる。でも、僕はどうしても越えたかったんだ。
今回も最優秀賞を掻っ攫ったであろう彼女の顔を思い浮かべ、再度、溜め息を零す。
今年こそは、と思ったのに。
自分の前に立ち塞がる壁の高さを、改めて見せ付けられた気がした。
日本アマチュア料理大会お菓子部門、史上最年少優勝。
パティシエルーク主催スイーツコンテスト中学生の部、三年連続優勝。
全国高校生料理コンクール、三年連続最優秀賞受賞。
小、中、高と僕が超えられなかった壁の輝かしい経歴。
対する僕は、授賞式で彼女の隣によく並んでいる男。その程度だ。
悔しい。図らずとも顔が歪む。
こうして僕は彼女の在学中、一度も優勝を奪えないまま三年へと進級した。
梅雨が明け、蝉が鳴き始める。
彼女のいない、コンクールの季節がやってきた。
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