【25話】そして、最後の選択を
『
数十本はあろうかという無数の
振り乱した髪も全て蛇。青緑色のウロコに覆われた身体を這う様子は、悪夢が具現そのものだ。
「キラリ! 上から来るップル!」
「くそっ!」
キラリは横目で、街の門を目指すミュウ達の乗った馬車を気にしつつも、蛇の化け物を誘うように移動しながらビームを放ち迎え撃つ。
「こっちだこの変態ヘビ女!」
――なるべく馬車から引き離さないと!
『あらあら、どこへ行くの? ボーヤア?』
蛇人間はまんまとキラリの誘いに乗り、方向を変えて追ってきた。
だが――。
『余程そっちが気になると……見えるなッ!?』
キラリを目掛け急降下していた上空の
「――くそ!?」
「こっちに来る! 全力で走れカイン!」
「空飛ぶ敵は想定外だよっ!」
「私が迎撃する!」
アークリートが叫ぶと同時に、リーナカインは手綱を馬に打ちつけた。途端に三頭の馬は走る速度を上げ始める。
『確かに……新鮮な、エサの匂いがするなッ!』
フラッズウルは馬車の上空でブァサと翼を大きく広げると、ピキュシュシュシュと、全身から鋭い矢のような羽を撃ち放った。
数十本の投げナイフと貸した
「きゃあっ!?」
「くっそ!」
金色の髪を振り払いながら、リーナカインが馬車の屋根の上をハッとして振り返った。
「キラリの自動迎撃が……動かない!?」
キラリの託した「自動迎撃機能を持つプラズマ球」は、確かに今も馬車の上で輝いていた。だが、
現に前方を塞ぐごうとする
「こなくそっ!」
アークリートが
『ホーッウウ!? これは……食いごたえがありそうだなッ!』
猛禽類は上空で旋回すると、鋭い眼光でアークリートをにらみつけた。
「来るがいい、そらとぶチキンが……!」
青い髪を風に揺らしながら、アークリートは銀色に輝くショートソードをスラリと抜き身構える。
「がんばってウーマくん! もう少しだから!」
「ブヒュルルッ!」
背中から血を流しつつも、三頭の馬は走り続けている。ベイラ・リュウガインの城門まではあと50メートルたらずだ。
城壁の上からは、馬車に襲い掛かる鳥人間と、「光の少年」と蛇人間の戦いの様子に、兵士達が叫び応援し、そして動き始めていた。
「みんなっ! 僕がっ!」
ビーム照射を向け、上空の敵を狙い撃とうとした、その時。
「キラリ前っプル!」
キラリが気を取られた一瞬の隙をついて、蛇人間が二本の脚をキラリに絡みつけた。まるで伸縮自在のタコの腕のように伸ばしたヘビで、キラリの胴体と足を同時に絡めとった。
『捕まえああえタァアアアーン?』
キシャァ! と女の顔をした蛇の怪物が嗤う。赤く二股に分かれた舌がチロロロと激しく左右に揺れる。
「しまっ……!」
太い蛇たちは次々とキラリに絡みつき、両足、両手、そして首……と、まるでヘビダンゴのように球形に縛りつける。
――う、動けない!
「ぐ……!?」
「キラリーッ!」
ギリギリと締め付けてくる強烈な力は、生身であれば既に人間を引き千切っている程だ。
だが、キラリが全身に纏っている光の鎧「ビームジャケット・フルアーマー」の抵抗力で持ち堪えているに過ぎない。
「キラリ……! 耐久限界を超えたら……お終いっプル!」
「わかってる……よっ!」
ビギ、ギリリ……と全身から嫌な音がする。
何よりも前身を這う太い蛇の感触に身震いする。鎌首をもたげ、まるで触手のようにキラリの身体を縛り上げている。
『キョーホホホ!? あらぁ? よく見ると美味しそうな……人間の少年……嬲ってみるのもいいかしらァン?』
一本の鎌首を擡げたヘビ頭が、キラリの股下を這い上がると、口を開けキバをむき出しにして、白く白濁した液体を浴びせかけた。
「うわっ!?」
「プルバイザ……ッうわぁ……アアッ!?」
「プルっ!?」
ジュウ! と焼けるような音がした。顔面への直撃を、ホイップルが身を挺して防いだのだ。もしもホイップルが防いでくれなかったら、キラリはまともにこの毒を浴びていた。
そして全身に巻きついた蛇たちは、次々とキバを立てて噛みつく。
「プル! プル! 大丈夫!?」
「うっ……痛いっプルが……ボクは……生き物じゃないから……壊れても……」
「生き物だろ! 友達だろ!」
「キラリ……」
『ンーフゥフフ!? 私の
キヒ、キヒヒヒと赤い舌を出し入れしながら卑猥に笑う蛇女。
興奮に伴って、ビュッビュとキラリの身体に毒液が浴びせかけけられた。ビームジャケットが綻んだ瞬間、その毒液は身体を溶かし骨を蝕むだろう。
――耐久限界! 警告! 警告!
「ぐっ……!」
「キラリ! 逃げるっプル!」
プルバイザーが赤い警告を次々と発し始めた。全身を締め付ける圧力でビームの組成が乱れ、全身の鎧を形成している結合が解け始めた。
ビーム残量も気がつけば2割を切り、赤く明滅し始めている。
光の刃もビーム砲も、指先や手先にエネルギーを収集しなければ使えない。今は全身の防御に全てのパワーをつぎ込んでいるのだ。
それだけではない。
横倒しに歪んだ視界の向こうで、カインとアークリート、そしてミュウの乗る馬車がついに足止めされていた。
「くっそぉおお!」
馬くんも含めた三頭の馬が傷つき倒れ、馬車は立ち往生している。
アークリートが叫び、剣を抜いて戦いを挑むが敵は上空10メートルを飛翔し、アウトレンジ「羽の刃」を放つ。
成すすべも無くアークリートは防戦一方だ。見ればすでに身体には傷を負い、血が流れていた。
「みんな! こんな……ところで……!」
キラリが歯軋りをし、血涙を流す。
――結合崩壊、ビームジャケット、消失! ――
そして、ビキッ……とキラリの鎧ヒビが入った。
「キラリ……」
「うん。最後の力……」
キラリとプルが、わずかに微笑を交わす。
「はは、同じこと考えてた」
「ボクも……プル」
――アークリート、リーナカイン、……ミュウ。ごめんね。
キラリとプルの脳裏に「自爆、爆縮モード」という選択が
『がっ……ぐふっ……な……なに……いい!?』
突如、蛇人間の締め付けが弱まった。
何事かと思う間もなくキラリは地面へと落下する。
「なっ……痛ッ!」
「プル!?」
ドサリと身体を打ち付けるが、そのままボロ着れにようになったビームジャケットを脱ぎ捨てて転がるように距離をとる。
ハッとして顔を上げると、鳥人間が苦しみ、全身から羽を散らしながら錐もみ状態になり、落下していくのが見えた。
アークリートはその千載一遇のチャンスを逃すかとばかりに剣を抜き、化け物へと突進してゆく。
『ギッ……ばっ……ばかな!? 何だ……これ……グハッ!』
『何を……何だ……これ……はっァアアッ!?』
蛇人間の皮膚がボロボロと崩れ始めていた。何が起こったかわからない、というように目を見開き、ビシュビシュと湿った音とともに体液を散らし、体の結合が崩壊してゆく。
それはまるで、ドロップスの力が失われたかのように。
「キラリ! これ……」
「ま、まさか!」
馬車の荷台から、赤い髪の少女が力なく落下するのが見えた。
――キラ……リ、負け……ない……で。
リーナカインが抱きとめて、ともに地面へと落ちる。
「ミュウウウウウウウウウウッ!?」
キラリの絶叫が響いた。
「ミュウが……ドロップスを……
「そんな! そんなこと……!」
半身が焼け爛れてしまったホイップルをキラリは腕に抱ええて立ち上がった。
ミュウはその体内に宿すドロップスの力を暴走させ、敵の身体を構成するドロップスと共鳴、その結合に僅かだが干渉したのだ。
となれば、ミュウも同じようにダメージを受けているということだ。
「……ミュウ! ミュウ!」
よろよろと立ち上がると、ミュウの元へとよろけながら歩き出す。
必死で介抱をするリーナカインのいる場所へと歩き出すキラリの前に、ズリュゥウウウ! と巨大な蛇と肉の塊イグネークが立ちふさがった。
『逃がシャァアア! しぃいいいなぁあああいいいいいいよぉおおおお!』
完全に顔面も身体も崩壊しても尚、食らい尽くそうとする憎悪。
「……どけ!」
キラリは静かに、そして怒気を含んだ声で叫んだ。
『お前の脆弱な肉も骨も……アタィイイの毒で……溶かし……悲鳴を聞きながらぁああシャブリイイイ尽くすノァアアア!』
イグネークが襲い掛かろうとした、刹那。
煌く光とともに、
『ギッ!? ナァニィイ……イイイッ、い!?』
続いてドシュ、ドシュシュ! と銀色の輝きとともに鋭い長槍が次々と蛇の身体を貫いてゆく。
「恐れるなぁああああ!」
「うらぁああああああ!」
「あ、あぁ……!」
「……プル!」
キラリは見た。
猛然と突進をかける兵士達の集団を。
城門から駆け出し、一斉に駆けつけてくれた兵士達を。
そして、長い槍を抱え、騎士の姿をした威厳のある人物のハッキリとした声を聞く。
「お助け申す! 我ら……ベイラ・リュウガイン重装歩兵の全力をもって……! あなたを……あなた達を!」
ドォオオオオッ! と地響きとともに兵士達が溢れ出すと、一斉に蛇人間イグネーク、そして周囲に集まり始めていた豚人間達を蹴散らし始めた。
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