Chapter 3

基幹艦隊

 ――激震。


 激しく明滅を繰り返す船内。視界を埋め尽くすのは青い空ではなく、無数の黒い影だ。まだ距離はあるものの、前衛艦から次々に上がる激しい火の手と黒煙は、敵の攻撃の苛烈さを如実に物語っていた。


「前列は敵ドローンを引き付けつつ後退! 四番・五番はデコイ射出! 前列の後退を援護しろ! 残った全艦は急速上昇! 高空から目標を殲滅する!」


 大陸全土でも最強の戦力と目されるユニオン第二基幹艦隊。その全てを預かる提督。キアラン・アンガスは、予想外の敵の猛攻にも動じることなく艦隊の各艦艇に指揮を飛ばす。

 元より彼は、コロニーに備えられた防衛システムの存在は予測していた。彼らに誤算があったとすれば、それはドローンの桁外れの物量。そして、その戦闘能力の高さだ。


「提督。現時点での解析結果、出ました。敵ドローンの衝角近辺に空間湾曲現象を確認。これでは、我が方の装甲も無きに等しいかと」

「空間湾曲か……」 


 副官が手持ちのボードを確認しながら報告する。その報告に、キアランもまた眉間に皺を寄せて息をついた。

 ユニオン艦隊の艦艇は、その殆どが耐物と次元断層による二重装甲を施されている。どちらもユニオンが誇る鉄壁の装甲だ。だが、現在交戦を開始したこの敵は、その二重装甲をまるで厚紙を破るかのように難なく貫通していた。


「やつと同種の技術の使い手は、そうそういないと思いたいが……」

「先日のニンジャのことを仰っているのであれば、あれとはまた別の技術と考えるのが適当かと思われます」


 副官の意見にキアランも頷く。しかし頷きつつも、キアランの脳裏には先日先遣隊を全滅させたの操る未知の技術が想起された。ニンジャもまた、ユニオン艦隊に施された二重装甲を容易く両断するエネルギーを操っていたからだ。


「技術体系は違うとしても、未解析技術への定石は変わらん。全艦の上昇を急がせろ!」


 既に黒煙を上げている前衛艦を援護しつつ、艦隊は一糸乱れぬ動きで一斉に上昇。周囲を埋め尽くすドローンに対し、数百隻のユニオン艦艇から数千、数万という数の対空砲火が一斉掃射され、次々とドローンを撃ち落とす。その様はまさに「撃てば当たる」という状況だ。


「速度の上がらない艦艇は下がらせろ! ドローンは防衛システムが反応する限界まで、十分に引きつけてから撃て!」


 炎上し、高度を取れない数隻の船が後退していく。それと入れ替わり、無傷の艦艇がドローンの群れの前に立ちはだかる。キアランは眼前に広がる巨大モニターを油断なく確認。ユニオン艦隊を示す地図上の光点は、艦隊がドローンの奇襲による混乱から脱し、的確な行動を取り戻しつつあることを示していた。


「うむ、さすがだ。皆よく動いてくれている」

「それはもう、普段から提督に鍛えられていますから……」


 ドローンの反応限界から、ドローンが艦隊に接近する前に全て破壊する――。

 キアランからすれば、ただ迫ってくるだけの自律兵器など訓練の的に等しい。

 決して焦らず、自軍の被害を最小限にとどめる持久戦。それがキアランの描く対未解析技術、必勝の陣形であった。


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