11話 祖国戦争  序戦 -7「死すべき鉄の罠」

ピザーラ少年は、大勢の兵士とともに密集隊形のまま戦場を駆け巡る。

彼のいる部隊は、出陣前は千人ほど居たのに、今では200人を下回るくらいに減っていた。

この状態でも前進を続けるのは奇跡だと言っても良い……と言いたい所だが、実はそんな事はない。

壊滅状態の複数の部隊がいれ混じって、跳ね橋目指して、ひたすら走っているだけだ。

先ほど言ったように、前進している集団の中を、横に移動しようとしたら事故る可能性が高い。

数万人の人間が命をかけた長距離走を嫌々ながらやっていた。それが現実だった。

ロングボウの制圧射撃は、跳ね橋へ近くなれば近くなるほど連射速度を上げて激しくなり、矢は安い鎧を紙のように貫通してくる。


(俺は生きるっ!俺には当たらないっ!俺には生きるための正義があるっ!)


ピザーラは生きたかった。死にたくなかった。

まだ若いし、やりたい事もたくさんある。

命をかける今の時間ほど、生というものを実感する瞬間はない。

生きるか死ぬかの大博打。成功すれば故郷に帰って土地をたくさん買って豪農として豊かにやっていける。

だが、失敗すれば死。そこから先は何もない。

童貞のまま、家庭も作れず人生を終える。BAD END。


(なんで、味方は助けてくれないんだ!?)


ピザーラ達を助けるための援護射撃はない。スケルトン弓兵の有効射程距離が長すぎて、ピィザ軍側の弓の射程内に入る前に大損害を被るから及び腰だ。

こうやって思考を巡らす間も、彼の周りにいる見知らぬ兵士の皆さんが、次々と身体を矢で貫かれて倒れ、他の兵士達に踏み潰される。

城壁が近づくにつれて、ロングボウの連射と精確な射撃が人間達を苦しめた。

威力を捨て矢を連射する事を優先した骸骨達。射てば当たるから秒間30連射。

骸骨の恐ろしい姿がピザーラの視界に入る。

奴らは無表情だ。骨に表情筋はない。何を考えているのかわからない。

だから、余計に怖くなる。


(化物がいるっ……!神よっ……!我をすくいたまえっ……!)


短い槍を持って祈る少年。だが、その祈りに反して現実は――非情だった。

城壁に大きな何かが固定された。それは巨大なクロスボウに見える。

発射台の上に細長い箱があり、その内部に大量の短い矢が収納された兵器だ。

横に備え付けれたハンドルを回す事で、矢が発射され、次の矢が装填される構造の『連発式クロスボウ』

ワルキュラに従った人間の兵士達がハンドルを勢いよく回し、戦場に殺戮をばらまく。


「セイルン王国の秘密兵器をくらいやがれぇー!」「邪神様に歯向かう奴は消毒だぁー!」


大量の矢がピザーラ達目掛けて放たれた。完全に矢のシャワー。

人間達は矢が刺さって負傷し、ピザーラの周りにいる兵士の数が急激に激減する。


(か、神様っ……!故郷に可愛い可愛い幼馴染がいるんですっ!

きっと俺の帰りを待っていて、俺は生きて帰らないといけないんです!)


彼の祈りが通じたのか。

連発式クロスボウの装填装置が壊れて矢がでなくなった。


「あれぇ?矢が出なくなったぞ?」「壊れたのかよ!」


だって、こういう系統の武器。部品が複雑になりがちで故障しやすい。

人力で全てやっているから、射程も威力も犠牲にしている。そういう欠陥がある。

1894年の日清戦争。

清軍の『逃げ将軍』が難攻不落の要塞放棄して自滅したり、海軍の『逃げ艦長』のせいで日本軍相手に自滅して、清国が破滅した戦争でも、連発クロスボウ『諸葛弩』を清軍が使っていた。

射程と貫通力の無さは、防衛拠点に篭って、矢に毒を塗ればカバーできる。

しかし、この武器。矢を複数装填するために、矢羽を付けられないから命中力も低い兵器だったりする。

もしも火縄銃とガチで戦う機会があったら、恐らく火縄銃が圧勝するだろう。

諸葛弩の射程は、たったの60mだし。


(神様!ありがとうございます!)


ピザーラは連発式クロスボウの故障を、神に祈りが通じたと信じ、跳ね橋を瞬く間に駆け抜け、首都カイロンへの一番乗りを果たした。

これでピィザ王から膨大な金貨+ここで略奪して得た財宝で豊かに暮らせる。

そのはずだった。

彼が目にした光景。城門の前を覆うように展開された大量の木の杭。

杭と杭の間には、鉄の糸にトゲトゲの針金を付けた――有刺鉄線が張られている。

1865年にフランスで発明され、アメリカで爆発的に普及した厄介な柵だ。

この障害物を突破しない限り、今までの犠牲は全て無意味だった。

しかも、有刺鉄線の更に先には、重装歩兵と化したデュラハン達が弓に矢を番えて待機している。

今のピザーラの気分はノルマンディー上陸作戦時の米軍さん。


(お、俺、一番乗りを果たしたから……もう命を賭けなくていいよな?

あとは後続の連中に任せ――)


後ろを見れば、次々とピザーラの背後から殺到してくる友軍の兵士達。

彼らに押される形で、ピザーラは走った。とまれない。膨大な金貨を得る権利を得たのに足が止まらない。

止まったら味方の兵士達の下敷きになって、先輩のパウダー伍長と同じ死に方をするのは間違いなかった。


「と、止まれぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


階級が絶対の軍隊社会。下っ端兵士に言われて止まる訳がない。

後続の部隊は、城壁と前の兵士が邪魔で何があるのか見えてないし。

ピザーラはそのまま押される形で有刺鉄線へと接触。トゲトゲがその体に突き刺さり、肉を切り裂き血が溢れ出す。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!!!!」


この有刺鉄線。人間の肌なんて簡単にズタズタにする障害物。


動くたびにピザーラの身体に有刺鉄線が絡まって、あっという間に血ダルマにする。

さすがに膨大な人間が突撃したから、木の杭の幾つかは倒れた。だが何重にも展開された有刺鉄線は障害物として機能し続け、次々と人間達をズタズタに切り裂く。

前進ができない以上、今までの犠牲は全て無意味と化す。

集団の持つ前進するエネルギーはここで完全に『殺されてしまった』


(こんなのってっ……!こんなのってありかよぉっ……!)


全身が血ダルマで倒れ伏したピザーラ。激痛を感じながら次々と有刺鉄線の犠牲になっていく友軍を見る。

後続が前の兵士を押し、その犠牲がどんどん拡大。

有刺鉄線のせいで、誰も前に進めなかった。頑張って捨て身の覚悟で杭を倒しても、トゲトゲの針金が障害物として現場に残り続けるから、犠牲者を量産するだけである。

仰向けに無気力に寝転がったピザーラは、細長い塔を見上げる。

そこに眼窩を真っ赤に光らせる大きな骸骨(ワルキュラ)がいた。全てを死へとおいやるような絶望のオーラを身にまとう大魔王。少年にはそう見えた。


(間違いない邪神だっ……!

あいつっ……!俺達が無残に死ぬさまを鑑賞してやがるっ……!

俺は一体、どこから道を踏み外したんだっ……!?)


全身から血が溢れる……こんな所で死にたくない。

まだ、何も出来てないのに死ぬのは嫌だ。

故郷に戻って全てやり直すんだ。

都会に出たけど、俺には何も残らなかった。


(邪神でも良いっ……俺を助けてくれっ……。

俺は俺はっ……まだ、やりたい事がたくさんあるんだっ……。

幸せにしないといけない女がいるんだっ……。

まだ童貞なんだよっ……)


田舎の人間が都会に出ても、コネがないから重労働で低賃金で危ない仕事しかなかった。

市民権を得る事もできず、結婚もできない。

成り上がれるチャンスだと思って、軍に志願したがそこに待っていたのも不自由で辛い生活。

まだ、労働の報酬を受け取っていない。


(母さん、父さん……。

俺が悪かったよっ……夢じゃ飯は食えなかったよっ……

家出したのは謝るから……家に帰りたいっ……)


少年にとって幸運な要素があるとすれば、『故郷』に帰っても居場所なんてない。

幼馴染の女の子は、地主の息子と結婚して幸せな家庭を築いているから、ピザーラの存在そのものが邪魔だ。

男の帰りを待ち続ける女なんて、そう滅多にいるもんじゃない。


「人間どもを殺せぇー!」


そのデューの声とともに、有刺鉄線の向こう側にいるデュラハン達が次々と矢の雨を降らせた。

それがピザーラの人生最後に見た景色。


ここで死んだ皆も、似たような思いを抱いて、この世から旅たった。

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この話のコメントまとめ


http://suliruku.futene.net/Z_saku_Syousetu/Tyouhen/Fusiou/c13.html


【小説家になろう】 オリ主「遠い所で起きた事を、既に知っている程度の能力!」

http://suliruku.blogspot.jp/2016/02/blog-post_79.html

【内政チート】 「衣服に使うナイロンでチートする」 人工シルク By 1938年 20世紀

http://suliruku.blogspot.jp/2016/02/by-193820.html



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ワルキュラ(´・ω・`)うわぁぁぁぁあ!!!有刺鉄線とか楽に突破できるだろ!?

ゴーレムとか装甲車両とか、空間転移魔法を使えば、簡単に突破できる障害物だからやばいぃぃぃぃ!!

本当にデスキングは名将なのか!?



名将(´・ω・`)どんな状況でも対処できる。

それが名将なんです。

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