第8話 一章 サーカスの闇
「だから何度言ったらわかるんだ!
空席を埋めろ、空席を!
できなきゃ地方巡業に出すぞ」
「そんな、地方巡業なんて出たらじり貧ですよ。
巴里でやるからこそやっていけるんです。
演目を変えれば客は戻ってきますから」
「じゃあ新しい看板役者(エトワール)を呼べ。
伯林に稼ぎのいい曲芸師がいるそうじゃないか」
「アルベルトならダメですよ。
前にビーティを声がデカいってだけでクビにしたでしょう。
小さな世界ですから評判がついてまわるんですよ。
いまじゃあなたは鼻持ちならない頑固オーナーです。
誰も来たがりません」
「それを何とかするのがお前の仕事だろう!」
支配人(ミステル)であるガーナムとオーナーが急ぎ足でこちらに向かってきていた。
この奥には支配人の執務室がある。
「ペルセウスが古いのだ。
いまさら神話なんて流行らん。
キャプテン・クックみたいな今どきの演目をやれ」
オーナーは苛立たしげにつばを吐いた。
「新しい演目なら二ヶ月も前から稽古中です。
そのために新入りだって手に入れたんですから」
「そう言ってあの野良猫は全然調教が進んでおらんではないか!
いつまで待たせるのだ。
とにかくあの蛇女はもう古い。
さっさと演目を切り替えて見世物小屋にでも売っちまえ。
これ以上客が減るようなことがあればお前はクビだからな!」
どちらも立派に髭を生やした年寄りだったが、オーナーが怒りを露わにして支配人のガーナムに噛みついていた。
少年はその場をやり過ごそうとしていたが、磨いていた鉄棒を床に落としてしまった。
がしゃんと耳障りな音が響く。
「誰だ!」
オーナーの声に少年はばつが悪そうに資材の影から立ち上がった。
「す、すいません」
「誰だ、こいつは?」
オーナーが眉をひそめる。
「ラファエルです。
雑用と出来そこない(デパエワール)たちの世話をやらせてます。
おい、そこで何をしている?」
支配人がつかつかと近づいてきて、杖でラファエルの頭を突いた。
「その……用具の片付けを……」
「いつまでやっているんだ!
さっさと終わらせろ!」
「はい!」
二人は声のトーンを落として執務室へと向かっていく。
ラファエルは急いで用具を片付けると、逃げるように収納庫を後にした。
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