第6話 一章 喝采

いよいよショーが開始される。


天井からつり下げられたブランコに観客たちも気を張り詰めた。


男は力強く第一のブランコを揺する。


オーケストラがドラムをリズミカルに叩き観客を煽った。


ガーナムの円形劇場では安全ネットは張られない。


まさに命がけのショーである。


男は一、二、三と観客にわかるようにタイミングを計ると、振り子のように行ったり来たりするブランコに飛びかかった。


高い跳躍。


伸ばした腕はしっかりとアームを掴む。


立て続けに足場の反対側からアシスタントが別のブランコを揺すって男に向けた。


男は大きく体を振って自分のブランコを揺らすとアシスタントが投げたブランコに飛び移る。


白鳥の少女が上空を飛びまわり、色とりどりの紙吹雪を空中に撒いた。


絶え間ない拍手。


やがて空中ブランコ最大の山場がやってくる。


三つ目のブランコ(これは先程のブランコの半分ほどの大きさしかない)が放たれ、男は車輪のように回りながら勢いよくブランコに飛びかかった。


――あっ


その手はわずかにアームを離れ、男は放物線を描いて空中に放り出された。


観客の悲鳴。


けれども男が地面とキスをする前に、白鳥の少女が空中で男の体を抱きとめた。


少女の翼が懸命に羽ばたき、落下のスピードは徐々にゆるやかになり、やがて上昇を始める。


息をつく観客たち。


男はそのまま最初のブランコまで案内され、しっかりとアームを掴み、指を差して白鳥の少女に賛辞を送る。


もう一度男がチャレンジする。


一、二、三と二番目のブランコに飛び移り、それから三番目の小さなブランコに回転しながら跳躍する。


今度はしっかりとアームを握った。


――エクセレントッ


観客は立ち上がって万雷の拍手を送った。


足場に戻った男はお辞儀をして観客に応える。


アナウンスが絶好調に鳴り響く。


「本日もガーナム円形劇場に足を運んで頂きありがとうございました!

 またお目にかかりましょう!

 良い一日を」


帰りの道筋で彼らはショーの興奮を語りあう。


出口近くの売店ではボンボンや曲芸師の名が入った帽子、ハンカチが飛ぶように売れた。


サーカスは今日も大盛況で幕を閉じた。

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