第20話 そのころチームメイトは……

 コータとアキがカヌー湖で優雅に散歩をしている時、そのチームメイトであるミツルとカオリは気配を殺して、その二人のあとを追っていた。

 二人は、ユキが自らの部屋を出たときに、目を覚ましたカオリによって急遽組織された監視隊だ。

 ミツルはカオリによって叩き起こされ、最初は不機嫌だったが、内容を聞くなり、そんな素振りを全く見せずに急いで準備をした。


 そして、コータとアキの後ろで何やら手に薄い紙きれを持ちながら、薄気味悪い笑みを浮かべるカオリ。


 「うふふふふ、やっぱり早起きは三文の得だわぁ。 この写真があれば、三文どころか、三万ぐらいの価値はありそうだけど」


 危ない声音で話すカオリに、なんともいえない目つきになるミツルだが、そんなことは口には出さない。

 とことん自分の周りの世界に興味がないミツルだが、その写真の中身までは、意図的に知らないようにしたい。

 ユキほどの美貌ともなれば、確かに金をはらってでも買おうとする輩が出てくるに違いない。


 実を言うと、カオリはユキではなく、ミツルの写真を売っているのだが、本人は全く気付いていない。

 明らかに美人な少女の写真よりも、美青年のほうが珍しいので人気が高く、よく売れるのだ。

 訓練所の女性で、ミツルの写真を持っていないヒトのほうが圧倒的に少ないぐらいの盛況ぶりなのだ。


 「それにしても、進展がないわねぇ、あの二人」


 「奥手なコータだからな」


 「わざわざ、魔法まで使って気配を殺してるのにねぇ。 意味ないじゃない」


 「魔法が使えないコータにだから使える手法だ。 魔法は解くなよ、すぐにバレるぞ」


 ひそひそと草陰に隠れながら二人を見守っているが、面白いことが全く起きずにぼやくカオリ。

 そして、それをさも当たり前のように肯定するミツル。

 だが、しっかりと魔法を解くなと忠告をする。


 「マジで? けっこう距離あるけど」


 「コータは壁の向こうからでも気付くぞ」


 「うわ、なにそれっ!? 反則じゃん!!」


 「声が大きい」


 驚いたように声を発するカオリに、ミツルが平板な声音で事実を伝える。

 コータは隠しているつもりだったが、ミツルにはしっかりとバレており、しかも本人が隠していたのをすんなりと教えてしまう。

 だが、驚いて声を大きくしたカオリに、ミツルはその口に手を当ててカオリを黙らせる。


 「―――っ!!!」


 「? どうした?」


 カオリは、年頃の少女の例に漏れず、覆いかぶさるようにして自分の体に密着してきたミツルを見て、顔を真っ赤にして身を固くする。

 ミツルは、自分が180ほどの身長と、そのモデルをしている美少年な顔をしているくせに、カオリがなぜそういう状況になっているのかわからないようで首を傾げる。


 「ん? 今、カオリの声がしたような?」


 「そうかしら?」


 「(バレたか?)……静かにしてろ」


 監視対象であるコータが、ミツルたちがいる方をしっかりと振り向き、鋭い視線を向ける。

 ユキが不思議そうに首を傾げているところを見ると、どうやらコータにしか聞こえていないようなので、まだ勘違いで済ませられそうだ。

 そう思い、さらに体を密着させ一言忠告してから、さらに隠密魔法を何重にも重ねてかける。

 そんなミツルに、またもや頬を紅潮させるカオリ。

 ミツルは全く気付いていないが。


 「…………気のせいかな? ゴメンね、なんか」


 「ううん、いいわよ。 それにしても、やっぱりすごいわね。 いつから、そんなに勘が鋭くなったのかしら?」


 「う~ん、いつからだろう? ユキと一緒に暮らし始めたあたりじゃない?」


 「その頃には、もうすでに、かなり凄かったと思うけど?」


 「そうだっけ? よく覚えてないんだよね~」


 コータが、目元を緩ませながらユキのほうを振り向きながら、にこやかに言う。


 しかし、その言葉にミツルは珍しく目を見開かせる。

 魔法によって拡大されていた声は、顔を真っ赤にしていたカオリにもしっかりと届いていた。

 そして、ふたりは同時に心底驚いたような声で復唱していた。


 「「一緒に暮らしていた…………?」」


 体を重ねたまま、お互いの顔を見ながら確認しつつ言葉を発する。


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 湖を一周(歩いて回ると50分はかかる)し、そろそろ陽が高くなってきたので、散歩をやめることにしたコータとアキの二人。

 今はすでに、アパートが立ち並ぶ一角に戻ってきている。

 

 「そういえば、朝ごはんは食べたの?」


 「食べてないわ。 コータは?」


 「僕もまだ食べてないよ。 あ、じゃあ、一緒に僕の部屋で食べる?」


 「ほんとう? じゃあ、ご馳走してもらおうかしら」


 「簡単なのしかできないけど、それでも良ければ」


 「いいわよ、それで。 久しぶりにコータの作ったごはんが食べられるなら」


 思いついたようにユキに聞くコータに、さらりと返す。

 だが、ご馳走してくれるという話が出た瞬間に顔を輝かせ、弾む足取りで歩きだす。

 コータは、嬉しそうに前を歩くユキを追いかける。


 「ぐぬぬ…………コータめぇ。 後ろから襲い掛かってやろうか」


 「やめとけ、やめとけ。 おまえじゃ、返り討ちにあうだけだぜ?」


 「それはそうだけど、このままじゃ気が済まねぇ」


 「まぁ、それは確かに」


 仲が良さそうに眼下を幸せ一杯で歩くコータとユキを、自分のアパートの部屋から呪い殺さんばかりの勢いで睨む誠二と、そこに逃げ込んできたワタルが見ている。

 ワタルは、マサルに酒を飲まされ酔っぱらったミホから、夜中に誠二の部屋に逃げ込んできたのだ。


 何故かというと、理由は単純。襲われそうになったからである。

 別に恋人同士なので、問題ないじゃないかと、最初は追い返そうとした誠二だったが、ワタルが涙目でこう言ったのだ。


 「Hなコトじゃなくて、物理的に襲われて死にそうなんだよっ!!」


 それがあまりにも鬼気迫る勢いだったので、リア充を敵視している誠二ですら、思わず部屋に上げてしまったのだ。


 「コータは置いといて、おまえはミホのトコに行かなくていいのかよ? 部屋に一人じゃ危なくねぇか?」


 「さすがに訓練所の中だから大丈夫だと思うよ。 それに……もし、今のミホを襲おうとするヒトがいたら、そのヒトの方が心配だよ」


 「…………そんなに? もし、その状況になったら、輩は病院送りぐらいになるのか?」


 「え? 当たり前じゃん。 その規模の心配じゃなくて、手術するかしなくてもいいかとかそういう話だぜ…………」


 「うわぁ、恐ろしい…………」


 いい加減、帰って欲しかったので、誠二が未だに部屋で寝ているであろうミホを引き合いに出すが、ワタルは全く心配していないように言う。

 それどころか、誠二が青くなったのを不思議そうに見つめるぐらいだ。

 とんでもない女と付き合っているなと、改めて思った誠二だった。


 「あれ、ミツルだ。 それに……カオリも?」


 ちらりと窓の外を見たワタルがいつも通り無表情のミツルを見つける。

 そして、その隣を顔を真っ赤にして歩くカオリを見て、不思議そうに首を傾げる。

 ミツルは一人をとことん好むので、基本誰かと一緒にいるところを見ない。

 ただ一つ、コータは例外だが。

 別に変な意味ではなく。


 「珍しい組み合わせだな。 もしかして、あの二人もリア充イベント勃発中だったのかっ!?」


 「イヤ、あのミツルに限ってそれはないと思うケド…………」


 「天誅ーーーー!!!!」


 「全然、聞いてねぇし」


 誠二も最初は不思議そうにしていたが、途中でハッとなり、斜め方向へ誤解する。

 それに対し、女の子どころかヒトに興味がないミツルがそんなことをするわけないだろうとワタルが言ったが、全く聞く耳を持たずに、叫び声を上げながら部屋のドアを乱暴に開け、外へと繰り出す誠二。

 そんな誠二にボヤいたワタル。


 「死に腐れ、この外道がァァァァァ‼‼‼‼」


 「サンダーボルト」


 窓の外を見ると、魂の叫びを発して、ミツルに後ろから飛び蹴りをくらわせようと跳躍する誠二。

 だが、当のミツルは、後ろを振り返りもせずに、初級雷魔法を放つ。


 「ぐわわああああぁぁぁぁ!!!!」


 「え? なになに、何が起こったの!?」


 ビックリして後ろを振り返るカオリの前で、サンダーボルトを前から直撃し、悲鳴を上げる誠二。

 服がところどころ焦げているトコからして、ミツルは手加減してくれたらしい。

 ミツルの魔力量だと、例え初級魔法といえど、建物を半壊させることぐらいはできるので。


 「後ろから襲い掛かってくるな」


 「ぐあ、い、いてぇ」


 「そうだろうな。 適度にダメージを与えるように手加減したから」


 「この、クソ野郎が……」


 「後ろから襲い掛かってくるおまえに言われたくない」


 「ぐぐぐ…………」


 無様に前のめりで地面に倒れた誠二があまりのダメージに起き上がれずに、そのまま顔だけをミツルに向けて文句を言う。

 だが、正論を言っているミツルに何も言い返せずに歯軋りをしながら呪いのこもった視線でミツルを見る。

 あまりにも惨めである。


 「はぁ~、全く。 面倒なヤツだなぁ」


 そう言って、ワタル自身も下に降り、目を白黒させているカオリに説明をしにいく。

 誠二は説明できるような状況じゃないし、どうせミツルは説明を求められても面倒くさがって言わないので。

 だが、カオリに説明してる途中で、ワタルもふざけてミツルを茶化し、自分も雷魔法を食らって説明できなくなってしまうのだが、その時にはカオリが呆れたような顔をしていたので、それでこの件は一応の収拾を見た。

 因みに、ワタルは「水の意思をつぐ者」なので、雷魔法には弱く、ダメージは誠二よりも大きかった。



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~次回予告~


誠二 「全く、いくらなんでも魔法で反撃しなくてもいいだろっ!?」

ワタル「ホントだぜ、全く。 あぁ~あ、痛かった~」

ミツル「おまえらが悪い」

コータ「なんかあったの?」

ミツル「元凶だ」

誠二 「おまえ、朝っぱらからナニしてるんだよ……」

コータ「えっ!? な、な、なんのことかな?」

ワタル「めっちゃ、動揺してるじゃんw」

コータ「そ、そんなことないよっ!?」

誠二 「全く、いいよなぁ。 朝から○○したり、○○○○したりしたんでしょ?」

コータ「誰もそんなことしてないよっ!! それに、放送禁止用語だからっ!!」

ワタル「大丈夫、放送じゃないから」

誠二 「ある程度は許されるでしょ」

ミツル「別に大丈夫」

コータ「大丈夫じゃなぁぁぁぁぁいいい!!!!」

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