第18話 宴へ行こう
試合が終わり、観客席で見ていたヒト達は、それぞれ動き出した。
宴の準備をするべく広場のほうへ走って行ったり、先程の戦いを見て興奮した様子で話していたりと様々だ。
その中で、斉藤率いる遊軍の全員がマサルの前に整列したので、皆が何事かと動きを止めて見入る。
「全体、鈴木マサル殿に敬礼!! 直れっ!!」
「うん、ありがと」
斉藤が、初めて軍隊らしいことをしたかと思ったら、マサルに向けて遊軍のメンバー、百人足らずがマサルに向けて、まるで軍隊のお手本のようなキレイな敬礼をする。
その敬礼を見たマサルは、驚きもせずに、寛大に頷いてから一言返す。
「さきほどの戦い、お見事でした!! 流石は我らが将であります!!」
「ええっ!?」
「そうなのっ!?」
「いや、違うし。 みんなの前で宣言するんじゃねぇよ、斉藤」
斉藤が感服したように言い、続けて、断固とした声音で言う。
その言葉に驚いたアキとコータが声を発したが、即座にマサルが否定して、面倒臭そうに斉藤に言う。
ついさっきとんでもない強さを見せたマサルが不機嫌そうなオーラを出したので、遊軍の中には身構える者も少なくなかったが、当の斉藤は楽しそうに笑いながら言葉を続ける。
「アハハ、これくらい大々的にやれば、みんな信じるかと思いまして」
「余計なコトをするんじゃあ、ない!!」
「アハハ、すいません。 でも、見事でしたよ?」
「こんな弱っちいヤツらに負けるわけないだろ。 ろくに戦ってきたこともないのに」
斉藤の言葉に、顔をしかめながら言うマサルだったが、悪びれた様子もなく斉藤は詫びを入れる。
そして、ついでにおだてる斉藤だがマサルが当然だという風に言うので、コータとミツルはムッと眉を
だが、マサルがこちらを見てニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべてきたので、コータは思わず言い返す。
「次こそは、絶対に負けないからね!」
「おーおー、言うようになったな~、泣き虫のガキんちょだったくせに」
「な、何年前の話しだよっ!?」
「えー? つい、この間まで負けたらビービー泣いてたくせに~」
「それは、小学生の時の話しでしょうっ!?」
「お
「わかった、わかったから!! もう、やめて!」
コータが言い返してきた言葉に、さらに笑みを深くしたマサルが、過去の話を持ち出す。
密かに近くに寄ってきていたユキは、過去をヒトにあまり話さないコータの貴重な昔の話だと思い、耳をそばだてるが、止められてしまった。
「いや~、それにしても相変わらず強かったわね~。 毎日のあの特訓は今も続けてるの?」
そう声をかけてきたのは、コータたちを嵌めて、見世物にして、自分は審判という手を出せない位置に立ったカオリだ。
「当たり前だろう? 俺の弟子から逃げ出したヤツに言われたくないけどな」
「ゴメンなさい、師匠~。 今はちゃんとやってるわよ?」
「どうせ、レベルを低くしたやつだろ?」
「アレ、なんでバレテルノカシラ」
「おまえのその体つきを見ればわかる。 ちゃんとやれば、もっとナイスバディになれたのに…………」
「ちょっと、気持ち悪いわよ? 年下相手にナニ言ってるのよ、このロリコン!」
「いや、俺19なんだけど。 おまえたちと二つしか変わらないんだけど」
マサルが普通に訓練所にいたときは、カオリや蓮の師匠をやっていたこともあるので、比較的仲のイイ二人が、普段通りに話す。
訓練所では、師弟関係があるのだが、この二人のように実にフランクなところもある。
コータと蓮も同じような関係だ。
なぜコータの師匠はマサルではないのかと言うと、本人曰く、「俺が蓮に教えたことをそのままコータに教えればいい。特訓の仕方も手を抜いて教えさえしなければ、誰がやろうと変わらないしな」らしい。
面倒臭がりのマサルらしい言い分である。
「それより、そこの二人を起こしてやったらどうだ?」
「そうだね。 ミツル、頼むよ」
「わかった」
渋い顔をしたマサルが、話題の転換を図るため、未だに戦ったときのままで気を失っている誠二とワタルの二人を見て言う。
マサルの言葉に、返事を返すコータだが、こういうのミツルのほうが得意なので、ミツルに頼む。
ミツルは、コータからの頼みを受けて、二人のほうにそれぞれの手をかざす。
「ウォーターパニック」
その瞬間、ミツルの手の先から湯舟をひっくり返したかのような大量の水が噴出され、気絶している誠二とワタルの二人に向かって直進していく。
その途中にいた何人かの遊軍隊員たちは、さっと身を離れ避けるが、気絶した二人が避けられるハズはなく、盛大に水をかぶる。
「ぐはっ!! ごほっ、ごほっ、水か!?」
「んん? 水かぁ、そういえば、終わったのかな?」
『水の意志をつぐ者』であるワタルと違い、誠二は苦しそうに咳き込みながら上半身をガバッと起こす。
ワタルは呑気に目をこすりながら、試合が終わったのかと、辺りをキョロキョロ見ながら言う。
『水の意志をつぐ者』であるワタルは、水には強く、水中でも息が出来るし、浮力などを無効化し、陸上と同じだけのチカラを水中でも発揮できる。
そんな二人に、コータが気安く声をかける。
「おはよう、二人とも。 よく眠れた?」
「あぁ、誰かさんのおかげで、またずぶ濡れだがな」
「そーいや、今日二回目だねぇ。 俺は気持ちイイから全然構わないけど~」
「ウォーターパニック」
「ゴボゴボゴボゴボ………………テメェ、何しやがる!!」
「オイ、ミツル!! 流石に限度ってモンがあるだろ!!」
「濡れたいって言っただろ」
「「ぶっ殺す!!」」
「まぁまぁまぁまぁ!! ちょっと、落ち着いて!!」
不満を示した誠二と、またも呑気に言うワタルに、ミツルがもう一度同じ魔法をかける。
さすがにそれにはシビレを切らした誠二とワタルが、飛び掛らんとミツルに迫ろうとしたが、間にコータが入り、なんとか止める。
またもやケンカなどになったら、流石のコータでも止められるかどうか怪しくなってくる。
「そんなコトより、所長はどこに行ったんだ? 探しても見つからないんだけど?」
自分が起こせと言った割りに、全く気にしていないように言って、一蹴するマサル。
そして、先程から気配を探っていたようだが見つからず、だれともなしに聞く。
「あぁ、それなら、さっきどこかに消えたよ?」
「オリンポス十二神のくせに身勝手な神め…………まぁ、普段よりかは、まだマシか」
「僕は、神に向かってそんな口の利き方できるのマサルぐらいだと思うよ」
コータが報告しに行ったときのコトを伝えるが、その言葉を聞いた瞬間に不機嫌そうな顔になり神に対し、不遜な態度を取る。
普通、そんなことをしたら、神からの手痛いバツか、嫌がらせが来るのだが、マサルほどの実力ともなると、復讐を恐れて逆に神が手を出そうとしない。
現に、5年前の大戦では、何人もの敵対する神々を葬り去った(消し去った)という実績があるので、尚更だ。
「そういえば、マサルさん。 この間は、隊長と一緒になにをやらかしたんですか? 隊長が今度マサルさんに会ったら、『このあいだの請求は、そっちで受けろよな!』と言っていたんですが」
「あ~、それか。 別に大したことじゃないぜ? ただ、この間、海に遊びに行ったんだよ。 そしてら、命知らずのウミヘビの怪物がいたんで、そいつに社会の上下関係をミッチリ教えてたら海水浴場の海の家を吹っ飛ばしただけだ」
思い出したようにキョトンと言う斉藤に、マサルは頭をかきながらなるべく話が大きくならないように自然に話し出す。
サラッと、吹き飛ばすなどという物騒な話も出てきたが、あの試合の後なので、別に誰も不審がらない。
「そんなことしてたんですか…………遊軍は別に、無駄な資金があるわけじゃないですからね、そんなことに予算をかけさせないでくださいよ?」
「あぁ、悪かった。 次は俺が払うよ」
困ったようにも、呆れたようにも受け取れるような言葉で、斉藤はマサルに念を押す。
対するマサルは、謝るものの、全く悪びれずに言う。
(次もやるつもりかよ…………)
そんなマサルの言葉に、当事者以外の全員が心の中で呟くが、そんなことはマサルも知る由はない。
「それと、あともう一つ」
「まだ、なんかやったけかな、俺?」
「いえ、そうではなく…………もう18時を回っていますが、みなさん、夕食にしなくてよろしいのですか?」
斉藤がもうひとつと言った瞬間に、まだなにかやらかしているのかと、非難めいた視線がマサルに集まったが、それを否定するように斉藤が食事の提案をする。
「そうだった!! せっかく準備してもらったのに、もったいない! 早く食べなければ!」
パッと顔を上げて、宴が開催される広場のほうを見つめ、一息に話すと、駆け出すマサル。
「わたしも食べに行こうっと」
それに続くように、アキも走り出す。
「では、遊軍も解散! 各員、自由行動を認める!!」
「はい!!」
進言した斉藤は遊軍に命令を出す。
そして、存在感の高いメンバーがいなくなったことにより、寂しいような、物足りないような独特の空気が流れる。
「…………じゃあ、僕達も行こうか」
「そうだな」
コータがこの空気をまとめるように、みんなに向けて言い、ワタルが返事をし、他のメンバーは頷き、広場に向けて歩き出す。
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~次回予告~
マサル「おおっ!あそこにも肉があるじゃないか!?」
コータ「一体、どれだけ食べるのさ?」
マサル「テーブルの上から食べ物が無くなるまでだ!!」
ワタル「うぅ、もう限界だぁ」
誠二 「俺ももう食えない…………」
ミツル「バカじゃないか、おまえら」
コータ「そうだよ、あのマサルに勝てるわけないのに」
マサル「よっゆうー♪」
アキ 「まだ、それしか食べてないの?」
マサル「うわっ、出た一番の大食漢!!」
アキ 「誰が大喰らいよぉぉぉ!!!」
マサル「ギャアアアアァァァァ!!!!」
ワタル「……やはり、あの方には似たものを感じますね」
コータ「なんで、そんな畏まった言い方?」
ワタル「コータもいずれわかるさ」
コータ「…………わかりたくないんだけど」
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