第10話 秘密の契約♪

 興奮のあまり、惨めにも容量オーバーの幸せにより卒倒してしまったコータは、自らのアパートの部屋へと運ばれていった。

 ルームメイトは、ワタル、ミツル、誠二の3人なので、今は部屋には誰もいないから、そこでいいだろうという判断だ。

 コータの身柄は、たまたま近くにいた先輩の男子訓練生に運んでもらい、その後の看病はユキがすることになった。


 自分が元凶であるとは全く意識していないので、自分から進んで看病をすると言ったのだ。

 それがコータを苦しめる(いろんな意味で)とは知らずに。


 「大丈夫かしら、コータ。 …………それにしても、なんで倒れたんだろう? もしかして、病気とかじゃないわよねっ!?」


 斜め方向に誤解をするユキだが、それを否定してくれる存在は今ここにはいない。

 確かに、意見の相違はあるかもしれないが、病気といえば、ビョーキかもしれない。

 なので、ユキはせっせとタオルを水に濡らし、コータの汗を拭い、氷水につけておいた別のタオルを額にのせたりしている。

 ただでさえ、あの二人の件もあるのに、ここでコータにいなくなられてはこの先、どうすればいいのか…………。


 そんなコトを考えていたが、ハッとなり、悪い考えを脳内から払拭する。


 (こんなところでコータを失うわけにはいかないんだからっ!!)


 そのために努力しようと心の中で決心したユキであった。



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 「そういえば、コータはどこにいったんだ?」


 辺りをキョロキョロしながら、手にかなづちを持った(さっきコータがリア充イベントをやっていたときに木に藁人形デス・ドールを打ち込んでやった)誠二が近くにいたカオリに聞く。


 すると、カオリは、ニヤリとヒトの悪い笑みを浮かべて、面白げに誠二に話し出す。


 「さっき、コータが倒れたじゃない?」


 「あ、あぁ…………そうだな」


 「もしかしたら、それが誰かに恨まれて呪いでもかけられたんじゃないかって、話が出たのよねぇ」


 「そ、そうなのか? 俺にはよくわからないなぁ」


 誰にも見られないように隠れながらやっていた誠二だったが、あまりにも呪詛が大きく、カオリに気付かれたかと焦る誠二。慌てて手に持ったかなづちを後ろにやる。

 別にバレたからといって、特に大差はないが。

 もし、バレていたら面と向かって殴りに行くつもりの誠二。


 「まぁ、それはウソなんだけどね」


 「なんだよっ!! 脅かすんじゃない!!」


 「え? なんで脅かすコトになってるの? さては、誠二…………」


 「僕はなにも知りませーん。 何もしてないでーす」


 「はぁ、まぁ、いいケドね」


 破顔してウソだと伝えるカオリに、ビビりまくっていた誠二は思わず大声で返してしまう。

 そして、その動揺っぷりからホントにしたんじゃないかと勘繰るカオリに、知らんフリをしてとぼける誠二。

 その言葉に、溜め息交じりで応えるカオリ。


 だが、そんなことよりも、コータがどうなったか気になった誠二がカオリに事実を聞く。


 「で、ホントはコータはどうしたの?」


 「ん? 先輩に抱えられて部屋まで送られていったけど」


 「あぁ、それなら、よかった。 郷田先輩でしょ?」


 近くにいた強面の男子訓練生の先輩である郷田を頭の中に思い浮かべながら、コータの不運をほくそ笑む誠二。


 「うん、でも部屋まで付いていったのはユキだよ?」


 「なにっ!? よしっ、コータ、おまえを目が覚めない体にしてやるぅぅぅ!!!」


 誠二の言葉に肯定するも、言ってはいけない事実を話してしまうカオリ。

 その言葉を聞いた瞬間、誠二の目が獰猛に光り、コータのいるほうへと体を向け、固く意識した声音で叫びながら走り出そうとする。


 「待ちなさいって」


 「あいだだだだっ!!! 痛いっ、痛いよ、カオリさんっ!?」


 誠二の耳をつまみ、走り出そうとした誠二を引き止めるカオリ。

 そのあまりの痛さに、思わず絶叫する誠二。

 それぐらいの速度で走りだそうとしていたのだ。


 「水を差すようなコトするんじゃないよ。 アンタだって、二人の不可思議な関係・・・・・・には気付いているんでしょ?」


 「それは…………まぁ、気付いているケドさぁ」


 「じゃあ、二人きりにしてあげなよ。 別にアンタがユキを好きな訳じゃないんでしょ?」


 「当たり前だ! 俺の彼女は二次元にのみ存在するんだからなっ!」


 静かな声で、誠二の耳を話しながら言うカオリ。

 誠二も走り出そうとはせずに、バツの悪そうな顔になりながらだが頷く。

 その後に、つい何秒か前のしおらしさがどこかへ吹き飛んだような宣言をしたが、カオリは溜め息を吐く。


 「はいはい、わかったわよ。 じゃあ、見に行きましょうか」


 しかし、小悪魔の如く微笑んだカオリが誠二に提案というか、どこぞの魔王のような有無を言わせぬ凄みで誠二を圧倒する。


 「ええっ? さっき二人きりにしてあげようとか言ってたのは……?」


 「あれは、目に入る位置に二人と言うコトよ」


 無理を悟りながらも、言わずにはおれなかった誠二が、カオリに問う。

 だが、その言葉をなんなく一蹴するカオリ。


 「うふふふふふ、きっと、可愛いユキが見れるわよぉ…………ふふ、ふふふ、ふふふふ」


 (お、恐ろしや、恐ろしや。 親友がこんなだとユキが可哀想に思えてくる!)


 危ない声音で突如として、恍惚と笑い出すカオリに、ゾッとして心の中でユキを憂う誠二。

 さっきの自分よりもよっぽどタチが悪いんじゃないかと思った誠二だったが、それを言い出す勇気を彼は持ち合わせていなかった。


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 カオリと誠二の怪しい会議(主にカオリだけだが)が起こっている時、気を失っていたコータは、浅い眠りの淵にいた。

 普段から目覚めのいいコータは、覚醒しようとしている薄れた意識ながらも、自分がどのような状況になっていたのか半ば理解していた。

 理解していたのは、自分が興奮のあまり、情けなく倒れたというコトと、自分の部屋に運ばれていて、部屋を動く気配から誰かが看病をしてくれているコトだけだ。


 ただ、いくら気配に敏感なコータといえど、覚醒していない状態では、さすがに誰かまではわからない。

 そうこうしているうちに、薄く開けた目の中に、ある人物が映った。

 コータは目の焦点を合わせるため、少しだけ首を動かす。

 すると、眼前にあったのは、女神のように美しい顔だ。


 (はて、僕は天国にでも召されたのかな?)


 聡いコータといえど、あまりにも非日常な出来事が起これば、その聡明さにも刃こぼれが生じる。


 そして、今がそのときだった。


 何も考えずに、コータは無意識のうちに右手を女神の頬へと動かす。

 当の女神は、顔を赤くして驚いたような顔になったが、看病している人間が近くにいるので迂闊に避けられなかったので、そのまま手が頬に触れる。

 その柔らかな感触が手に伝わり、その本人が顔を赤くして恥ずかしそうにしていたので、心の中に愛おしい気持ちが生まれる。


 「なんて、可愛い……キレイだ」


 「えっ!?」


 実に小さい声だったが、澄んでいて、心からの言葉だと感じられるその声音に、ドキッとさせられたユキは驚いたように声を上げる。

 そして、その瞬間、パシャリと無機質な音が部屋に響く。


 その音に、警戒心マックスで目を見開いたコータが完全に意識を目覚めさせ、ガバッと起き上がり、自分の上にいた女神、もといユキを抱きかかえるようにして守る動作をみせる。そして、またパシャリ。

 起き上がった瞬間に唇と唇が重なるというお約束のアクシデントはなかったが、ユキはあまりにも俊敏なコータの動きに成すがままにされる。

 

 「なんだっ! 敵かっ!?」


 「うふふ、違うわよ」


 声をあげ、辺りを気配を探りながら見回すコータの耳に、全く気配が掴めなかった方向から声がする。

 声の方向を急いで見たが、そこには声を発せられるような物体は存在しておらず、抜刀しようとしたコータだったが、その動きを悟り、先ほどの声がもう一度する。


 「待って待って、私よ。 カオリよ、カオリ」


 「それと……俺だ、コータ」


 「「???」」


 二人の声が発せられたが、揃って首を傾げるコータとユキ。

 そうしているうちに、二人の姿が空間から染み出すように生まれてきて、実体を現す。


 「ゴメンね。 隠蔽魔法シャドードライブを使っていたから、わからなかったでしょう?」


 「あぁ、なるほど。 だけど、なんで、そこにいるの?」


 アハハと笑いながらカオリが声を上げるが、ベランダの開いた窓から姿を現したカオリと誠二を不審そうに見つめながら言う。

 そのコータに一層、笑みを深くしたカオリが答える。


 「なんでって、今の状況を楽しむためよ」


 「えっ? 今のじょうきょ…………」


 言葉の途中で自分が抱きかかえている誰かに目を移し、そこで固まるコータ。

 そのコータを至近距離でまたあの殺人的なユキの瞳が迎える。

 二人の視線が交差して、見事に二人とも真っ赤になり、そのまま、まるで石像のように固まる。

 そして、その隙にカオリの右手にあるスマホから、


 パシャシャシャシャシャシャシャ


 と今度は無機質な音が連続で響く。


 「はっ!!」


 「ちょっ、カオリ!!」


 我に返り、勢いよく、しかし優しくユキから遠ざかるコータ。

 その行動はとても素早く、かつ瞠目に値するほど俊敏な動きだったので感嘆すべきだろう。

 ユキは親友の行動に対し、非難の声を上げ、スマホを取り上げようとカオリに詰め寄る。


 「カオリ! スマホを渡しなさい!!」


 「わっ! 渡すわけないでしょ!!」


 「待ちなさい!」


 「待たない!」


 ユキがカオリに飛びかかろうとするが、カオリはベットから飛び降りたコータを盾にして避け、そのままコータを中心としてグルグルと鬼ごっこを始める。

 コータは二人から漂ってくるシャンプーのいい香りに頭がクラッと来るが、ここで倒れてはまたさっきのように惨めな思いをするだけだと思い、なんとか鉄の意志で耐える。


 そんなコータに、誠二がコータの耳にハッキリと聞こえるほど歯軋りをしながら、こちらを睨んでくるので、コータは易々と顔を緩ませることもできない。

 そんなコトをしたら、二次元の住人たる誠二から罵詈雑言と共に拳が飛んでくるだろう。

 それを試そうとは全く思わないコータ。

 しかし、このなんとも役得な位置をどうしたらいいのだろうか。

 イヤ、全体的に見たら少しマイナスだろうが。

 どう声をかけるか迷ったコータだったが、自分も写真には写っているので、まずはそれを消してもらうことにする。


 そう考え、走り回っているカオリの前に手を出す。

 流石に訓練を受けているだけあって、手に突撃するような真似はなく、見事にブレーキをかけて止まる。


 「ちょっ、コータ!」


 「捕まえたぁ!!」


 「きゃっ!」


 非難めいた声を上げるカオリだったが、同じく走っていたユキが後ろから追いつき、カオリに飛び掛る。

 カオリは可愛らしく小さな悲鳴をあげて、背中から飛び掛ってきたユキをなんとか支える。


 「うぅ~、コータ…………アンタのせいでっ!!」


 「僕だって写ってたんだから、ちゃんと消してよね!」


 またもや、非難めいた視線を受けるコータだが、非難されるいわれはないので、自分も強気に出る。

 そして、それにユキも同調する。


 「そうよ、カオリっ! いつも写真撮らないでって言ってるでしょ!?」


 「えぇ、でも、ユキの写真を撮らないなんて、そんなの人類の損失だよ!?」


 ユキの言葉に、息荒く力説するカオリ。

 そこだけはコータも同意せざるを得ないが、そんなコトはおくびにも出さない。


 「えぇ!? 人類の損失って…………そこまで言う!?」


 「そこまでだよっ!! だって、こんなに可愛い動物が他にはいないもの…………だから、もう一枚写真撮らせて?」


 呆れた顔で言うユキに、尚も言い募るカオリ。

 そして、言葉の途中で写真を撮り始める。


 「ちょっ、撮らないでったら! や、やめてよぉ」


 両手で恥ずかしさで真っ赤にした顔を隠しながら、カメラのレンズから逃れようと無駄な努力をする。

 その可愛らしい姿を近くで見ていたコータは、先程の体験と相まって、自分も顔を赤くするが、そこで頭の中に魔法による通信が入った。


 『ねぇ、コータ? さっきの写真は消さないで、この写真をあげるって言ったらどうする?』


 『えっ!? でも、ユキが可哀想だし…………』


 『そこは大丈夫よ。 これだけ写真を撮ってるからさっきのは忘れてるわよ、きっと』


 『………………それなら、も、もらおうかな』


 『よしっ、契約成立ねっ!!』


 『アハ、アハハハ』


 ユキの与り知らぬところでこのやりとりが繰り広げられ、その何分後かにコータが間に入り、この騒動をなんとか治めた。

 この時、コータは一つの約束をしなかったのを後々後悔することになる。

 あの写真は、誰にも見せないという条件を追加しておけば、この先の人生は少し違ったかもしれない。



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~次回予告~


コータ「さっきのユキ可愛かったなぁ。 キレイだったなぁ」

誠二 「おまえって、ユキのこと好きだよな?」

コータ「なっ、えっ、そ、そんな、わ、ワケ、ないだだろ!!」

誠二 「スゴイ動揺ぶりだな。 噛みまくってるし、バレバレ」

コータ「な、なな、なんのコトかな?」

誠二 「今更、隠してもなぁ。 あのときとか、恍惚とした表情浮かべてたし」

誠二 (完璧に魂を奪われたような顔してたケド、それは言わない方がいいか)

コータ「それは言わないでっ!! あの時のことを考えると、熱くなってくる」

誠二 「女子か!!」

コータ「だから、その話はなかったことにして!!」

誠二 「へぇ、それはできない相談だなぁ」

コータ「えぇっ!? そこをなんとか……」

誠二 「だからねぇ、俺はそういうヒトを見るとね…………」

コータ「うん?」

誠二 「殴りたくなってくるんだよぉぉぉぉ!!!!」

コータ「ほへ? ギャアアアアァァァァ!!!!」

殴られたコータが復活するのは何分か後になる。

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