ぬいぐるみハルの逃亡!

にゃべ♪

第1話 ビックリ!喋るぬいぐるみ

 私はなぎさ。西 渚。どこにでもいるフツーの中学生女子。ひとりっ子だよ! 身長は152cm、体重は……ヒミツ! 得意教科は国語で苦手なのは数学!

 それから趣味は……えーと、趣味は何だろ? まぁいっか。


 そんな訳で季節は春! 私も無事に中学二年生になったんだ! いわゆる中二病だね! 病むよ! ウソウソ!


 でも中学二年生になったと思ったら、いきなりとんでもない事件に巻き込まれちゃった。本当、いくら中二だからってこんな説明出来ない事件に遭遇するなんて信じられないよね!

 え? 意味が分からない? 今から説明するから待ってよ! せっかちだなぁ。話の結論を急ぐオトコノコはモテないゾ!


 それはまだ桜の花が残る入学式の次の日の事。私は学校が終わってまっすぐ家に帰ったんだよ。

 え? コンビニで雑誌立ち読みして帰ったじゃんって? 何で知ってるの?


 と、とにかく! 家に帰ったの! 話を進ませてよ! ぷんぷん!

 でね! 部屋に戻ったら室内が妙に片付いてたんだよね。勿論すぐに私はその違和感に気付いたよ!


(……何……? ……この……何?)


 私はすぐに部屋のドアを開けて多分家の何処かにいる母親に文句を言ったんだ。こんな事をするのはお母さんしか有り得ないもんね!


「おかーさーん! また私の部屋勝手に掃除したでしょー!」

「あんたほっといたらずっとそのままじゃないの!」

「ふんだ!」


 母親の返事に気を悪くした私は力任せにバタンとドアをしめる。もうね、あったまきたもんね。全く、話にならないわ! 私の部屋は私が管理してこそなのよ! 母親の介入許すまじ!


 えーと、読みかけの漫画とかお気に入りの雑誌とか……。ちゃんと前みたいに手に取りやすいいつもの定位置に戻さないと。

 って、あれ? こんな所にこんなの前からあったっけ?


 私の目に止まったのはそれまで私の部屋にはなかった物。あまりに自然にそこにあったので、一瞬その存在に気が付かなかったほどだった物。


 それはまるで当然のようにそこにあった灰色の大きなクマのぬいぐるみ。


 ぐてっと座っているように部屋の隅に置かれているけど、立ったら40cmはありそう。顔は前に映画でやってた動く某クマのぬいぐるみにそっくり。もしかしてキャラグッズか何かなのかな?


 今朝学校を出る時までこの部屋にこんなのはなかったはず……。何これ? 私へのプレゼント? 部屋を片付けたお母さんなら知ってるかな?


 私はもう一度部屋のドアを開けて母に尋ねた。


「おかーさーん! このクマのぬいぐるみ何ー?」

「ぬいぐるみー? 知らないわよー!」


 おかしい、こんな目立つ物をあの人が知らないだなんて。じゃあ、お母さんが掃除した時はまだこれはなかった? だとしたら誰が一体この部屋に?

 私はひとりっ子だから、部屋を間違えて誰かがここに置いたって事は多分ないと思うけど……。


 取り敢えず私はそのクマのぬぐるみを抱き上げてみた。……うん、どうやら重さは特に重くも軽くもなく……普通……かな?

 次はぬいぐるみに耳を当ててみた。……ほら、爆弾とか入ってたら危ないし。


 そうすると私の耳にぬいぐるみであったなら聞こえてはならないドクン…ドクン…と言う音が聞こえてしまった。


「うわーっ!」


 この状況が怖くなった私は思わずぬいぐるみを反射的に壁にブンと思いっきり投げつけていた。投げられたぬいぐるみはそのまま部屋の壁にぶつかって、ボフッと言う音を立てる。その刺激によって爆発! ……はしなかった。

 しなかったんだけど……。


「いってぇー!」

「?!」


 何? 今の何? まるでぬいぐるみが喋ったみたいな感じだったけど。怖くなった私は投げつけたぬいぐるみをもう一度拾って、今度はまた別の壁にぶつけてみた。そう、今度は目一杯超本気の勢いで!

 ボフンッと言う大きな音を立てて勢い良く壁にぶつけられたそのぬいぐるみは、当たり前のように悲鳴を上げた。


「ぎゃうー!」


 ……


「ぬ、ぬいぐるみがシャベッタァァァァァァ!」


 い、今起こった事をありのまま話すぜ……。ぬいぐるみだと思っていたらそいつはぬいぐるみじゃなかった……。ぬいぐるみの姿をした別の何かだった……。何を言ってるのか(略)。


「な、何? これって最新のオモチャ?」

「いててて……違うよ……僕は」

「う、うわー!妖怪だ! 退治!」


 この現象に怖くなった私はパニックになってしまった。気が動転して手元にあった本とか雑誌とかをそいつにぶつける。それはもう手当たり次第に遠慮なくぶつけまくった。静かな部屋にバシッ、バシッと衝撃音が響く。


「ちょ、ちょっとやめてよ! 話を聞いてよ!」


 ぬいぐるみらしきそいつは反撃もせず私の攻撃にただ耐えるばかりだった。あれ? こいつ、そこまで危険な存在じゃ……ない?

 投げるものを投げきって少し落ち着いた私は、恐る恐るこのぬいぐるみに質問を投げかけてみる事にした。


「あ、あんた何者なの?」

「や、やあ……僕の名前はハル。少しの間かくまって欲しいんだ」

「かくまう?」


 ハルの話によると――。


 ある事情があってこの世界に逃げて来た。

 そのせいで元の世界に帰る事が出来ないので3ヶ月ほどここで保護して欲しい。

 迷惑はかけないし大人しくしているからお願い――だって。


「で、ある事情って何?」

「ごめん、それは言えない」


 その事情についてハルは頑なに口を閉ざし教えてくれなかった。もしそれが何か犯罪的な理由だったらどうしよう……だとしたなら、何とかして追い出さなくちゃ。


「あんた、何か悪い事したんじゃ……」

「いや、こっちの子に興味はないから……じゃない! そう言うんじゃないんだ! そう言うんじゃ」

「ん?」


 私の質問に対するハルのこの回答……。何だか話が怪しくなってきたぞ。本当に大丈夫なのかなこれ。

 しかしうーん、これはマジで困った事になってしまった。大体、こんな事誰にも話せないじゃないの……。


 私はしばらくこの問題にどう対処していいか考えていたんだけど、そこで突然頭の中で閃くものがあったんだ。あ! よく考えるとこれってテッドじゃん!

 もしかして映画的な物語がこれから展開したりするのかも! そう考えると私ちょっとテンション上ってまいりましたwww


「テッド! 今からあなたはテッドよ!」

「いや……ハルだし」


 う、そこは冷静に否定するんだ。ノリ悪いなこのぬいぐるみ。

 でもまぁ迷惑はかけないって言うなら、ここに置いておいてもいいかな。それで、ハルが生きていると言う事はこれも聞いておかなきゃね。


「あなたはご飯とか食べないの?」

「こっちの世界にいる間はお腹空かないんだ」

「ふーん、便利ねぇ」


 食事の世話がないなら下の世話もしなくていい訳だし、そこは楽だな。じゃあ……まぁ、この部屋に置いとくくらいならいいか。

 でも一応母親にはぬいぐるみを貰った事にして報告しておかなきゃだね。部屋にいきなり見慣れないぬいぐるみがあるって言うんで、何か変に勘ぐられても面倒だし。


 私はまたドアを開けると、今度は母親に向かってアリバイ工作をする。


「おかーさーん! 今日友達からぬいぐるみもらったんだー! 部屋に置いとくけど気にしないでねー!」

「あ、そー」


 あれ? お母さん、この話に全然興味ないみたい。誰から貰ったかとかそう言うの聞きそうなもんだけど普通。

 ま、余計な事聞かれないならそれはそれでいいか。楽だし。これで偽装工作は完了っと。


 そーゆー訳で、何だかなし崩し的に私はこの喋るぬいぐるみテッド……じゃない、ハルと一緒に暮らす事になってしまった。

 何だか色々訳分かんないけど、これから楽しく過ごせたらいいな。

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