第29話 未来視の中の清明
<ブラックナイト>を眺めているうちに、清明は魔女ベアトリスの艦隊との最終決戦の幻視を思い出していた。
味方の天龍、地龍、黄龍、玄武、白虎などの戦艦が大破し、炎上している光景が見えた。
恐怖の大王の影が信長を襲い、神沢優、月読波奈が相次いで倒れ、オタクや武士たちの<ボトムストライカー>も次々と蹂躙されていく。
あとは戦闘と呼ぶことも出来ない掃討戦、虐殺のようなものだった。
その中で神霊である清明は為すすべなく、それを見守るしかないのだ。
現実世界には何かを媒介としないと介入できない。
できれば、戦士のひとりとして戦場に立てないものかと思案を重ねてもいた。
この未来の幻視を覆すためには、恐怖の大王の正体を見極めて、それに対抗できる戦力を整える必要がある。
だが、その正体さえ全く掴めない。
いつも黒い霧や靄がかかったように捉えることもできない。
絶望感だけが重く清明の頭を押さえつけていた。
(清明殿、どうかしたのか?)
何かの気配を察したのか、信長がテレパシーを送ってきた。
(いや、いつもの未来視です。時折、ビジョンが見えることがあるのです)
清明の声は心なしか沈んでいた。
(良くない未来か?)
(芳しくはないです)
信長は大きなため息をつく。
そこから深く長く息を吸い込んで、ゆっくりと語りだした。
(清明殿、わしも本能寺の変の前日、三つ足の蛙の香炉が『ニゲロ、ニゲロ』と鳴くという怪奇現象が起こったりして不吉な予感はしていた。地下通路は事前に作っておいたが、結局、服部忍軍に待ち伏せされていて、清明殿が助けてくれなければわしは死んでいただろう。人生には思わぬ窮地もあれば、意外な幸運もある。言うなれば、わしはすでに死人も同然であとは余生のようなものだ。まあ、生まれ変わったようなものとも言える)
そこで信長は長い息を吐いた。
(清明殿のように未来が見える神霊にとっては、未来は絶望的なものに見えるかもしれない。数千年の長い経験から因果の糸さえ見えるかもしれね。だが、わしは自分や清明殿が変わって行くこと、やつらが成長することを期待している)
信長らしくはない、明らかな気休めである。
だが、それ自体が人は変わり得るという事実を指し示してもいた。
(そうですね)
清明は一筋の光明を見出した心地がした。
(いや、スマホで後の歴史をみて、秀吉と家康がイエズス会との戦いを上手くやってくれるのをみて安心してのう。しかし、明治維新の坂本龍馬という男、最後の最後でイエズス会を出し抜いて暗殺されているが、あの男も<天鴉>のメンバーなのか?)
信長は怪訝そうに清明に尋ねた。
(そんな男はいなかったはずですが)
清明にもそれは分からなかった。
だが、明らかにイエズス会の動きを読みきっての見事な働きをしている。
ひょっとすると、何者かに情報をもらっていたのかもしれね。
そうか、わしが暗躍すればいいのか。
清明はにやりと笑いながら陰謀を巡らしはじめた。
†
「夜桜、先行しすぎだ。重力砲の一斉射撃を浴びるぞ」
メガネは<ボトムストライカー>隊を引き離して、<ブラックナイト>の上空に躍り出た<ニンジャハインド>に警告した。
「隊長、最初に一発浴びせるだけですよ。挨拶代わりに」
夜桜はそう言うと、<ブラックナイト>を見下ろす位置で停止した。
当然、重力砲、重力魚雷の一斉攻撃が来る。
が、次の瞬間には夜桜の機体は<ブラックナイト>の直下に一瞬で移動していた。
「殲滅刀技、空波斬!」
横薙ぎに払った聖刀から
そのまま死角に潜り込んだ夜桜の機体は高速移動で再び姿を消す。
「殲滅刀技、雷神斬!」
そのまま敵の背後から再び上空に抜けて、今度は<ブラックナイト>の背面の重力砲を薙ぎ払う。
「夜桜さん、なんで殲滅刀技を連続使用出来るんですか?」
後方で援護砲撃している神沢隊の副隊長のカトウが訊いてきた。
「よく見なさい。カブトホーンなので、あれは<ニンジャハインドSSSR>よ。光子波動エンジン、反重力エンジンの並用可能だし、機体のエネルギー容量自体が桁違いだから」
神沢優が指摘する。
「夜桜さん、チートすぎるよ」
カトウはあまりの機体性能の違いに愚痴がでる。
カブトホーン、それは頭部にあるカブトムシの角のようなアンテナである。
普通の<ニンジャハインド>はショートホーンであり、メガネの隊長機はロングホーンであり、レアな機体ほど特徴的なホーンをもつと言われている。
<ニンジャハインド
「さて、夜桜さんが破壊してくれた死角から攻撃するわよ。全機、機動突撃準備せよ! 落とされるんじゃないわよ」
「了解、神沢隊長」
カトウは嘆きながらも久々の機動突撃に心が踊った。
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