第23話 薔薇十字騎士団の追撃

「信長殿はおられるか? 私は<薔薇十字騎士団>の団長リカルド・バウアーである」 

 

 正体不明の赤色の人形機体200騎のリーダーらしき男が名乗りを上げた。

 西洋風の甲冑の兜を脱いだら、切れ長の青い瞳、短く切った金髪をもつ男の顔が現れた。

 やはり、白銀色に輝く身体にぴったりとした宇宙服のようなスーツを着ている。 

 正面に約100騎の機体が立ちふさがり、立ち往生している信長とその一行であるが、一応、主人公の安東要は影が薄すぎて一般兵に完全に紛れていた。他の100機は遊兵、伏兵になっていると思われた。 


「わしが信長だが、何か用かな?」


 すでに主人公の風格漂う信長であった。


「残念ながら、そなたの命をもらい受けねばならない。死ぬ前に一度、顔を拝見しようと思ったという訳だ」


 何かめんどくさい性格の男であることは分かった。

  

「誰の差し金かな?」


「さる高貴なお方だ」


「なるほど、ベアトリス殿か?」


「それはありそうでない」


「違うのか? そなたはベアトリス殿と知り合いか?」


「まさか、それはない。聴かなかったことにしてくれ」


「はっ、聴こえぬな」


 信長は無視した。


「ならばよし!」


 リカルド・バウアーは叫んだ。

 要たちは一斉にずっこけた。

 結構、勘違いはなはだしい、かつ、ドジな敵らしい。

 イケメンなのに、どこか憎めないところがある。


「では、全ては丸く収まったようなので、そろそろ死んでもらおう。死人に口無しとも言うしなあ」


 リカルドは自分の都合の悪いことは見えぬ、聴こえぬ、話さないタイプのようだ。

 でも、少し気にしている。


「膝切、<聖刀開眼>!」


 その時、天海のもつ源氏の妖刀のひとつ<膝切>が煌めいた。

 騎乗した式鬼<銀鋼シロガネ ゼロ>用に≪零式妄想式超光速12Dプリンター≫で巨大化させている。

 刀風圧で赤色の人形機体100機が10メートルほど後ろに下がった。

 凄まじい刀威である。


 別名<膝丸>ともいう。筑前正応、筑後光世、奥州文寿、宝寿など異説が多いが、筑前国三笠郡土山の鉄の細工師の異国鍛冶によって打たれたものだと言われている。


 源義家が罪人で試し切りをした際、一刀で両膝を切断したために「膝切」と呼ばれた。

 その後、大江山の酒呑童子退治で有名な源頼光が四天王を率いて全長4尺(約1.2メートル)の巨大土蜘蛛を討伐した際に<蜘蛛切り>と名を変える。

 

 <蜘蛛切丸>とも呼ばれたが、源為義の代に二振りの刀が終夜吼えて「吼丸」と号した。

 熊野別当田辺湛増は源義経の出立の際、吼丸を贈ったといわれている。

 源義経は「熊野より春の山分けて出でたり。夏山は緑も深く、春ほ薄かるらん。されば春の山を分け出でたれば(平家物語 剣巻)」といい、「薄緑(うすみどり、うすべり)」と名づけたという。

 義経は西国に出陣する際、「薄緑(うすべり)」を箱根権現に戦勝祈願のため参拝して奉納したという。

 

 源氏の名刀のもうひとつは<髭切>だが、源頼光が四天王のひとり渡辺綱が京都の一条戻り橋で鬼を斬って<鬼切>と変名している。


「おのれ、卑怯な! 私が<ベアトリスナイト>に乗り込むまで待たぬか! それでも騎士か!」


「武士だ!」


 天海が返す。

 <ベアトリスナイト>とか言ってるし、完全に語るに落ちている。


「屁理屈を言うな!」


 リカルドも負けていない。


「しかし、めんどくさい敵だなあ」


 信長も思わずぼやいた。


「天海さん、待たなくていいからやちゃって下さい」


 メガネ君もあきれている。


「空気、読めないし」


 月読波奈にも馬鹿にされる。


「以下同文」


 神沢優に至ってはコメントするのもめんどくさいらしい。


「えー、そういうことで」


(うむ)


 安東要と晴明が気のない返事をした。

 

「では、参る!」


 天海が源氏の妖刀の<膝切>をゆっくりと鞘走さやばしらせた。


 三日月形の無数の光の刀が、羽根のようにゆっくりと滑るように<ベアトリスナイト>に襲いかかった。 

 とっさに剣で受けたものは剣が、盾で受けたものは盾が綺麗に両断される。


「<膝切、三日月の陣>でござる。とくと味わってもらおうか」


 天海の周囲に三日月形の光の刀が乱舞し、円形の防御陣が展開した。

 何重にも光の円陣が要たちをつつみ、梵字が地面に描かれている。

 仏教系の魔方陣らしかった。


「遠隔攻撃とは卑怯な! 剣で戦え!」


 リカルドがわめいた。


「刀で戦ってるが、何か?」


 天海は切り返した。


「うーーーー、では、こちらも不本位ながらミサイル攻撃だ!」

 

 あんたの方が卑怯だろ!とみんな突込みたくなったが、伏兵していた両側面の残り100機の<ベアトリスナイト>から弾道ミサイルが空に弧を描いて飛来してきた。


「ここは波奈にお任せ!」


 月読波奈が牛乳瓶の底メガネを取った。

 おお!とオタク軍団から驚きの声が上がる。

 意外と可愛いかったのだ。

 安東要も月読波奈の「ブスメガネ」という仇名を心のノートからそっと消した。


 右目は黒いが、左目が青色に輝いた。

 その瞬間、ミサイルがどこかに一瞬、消滅して、伏兵の<ベアトリスナイト>の頭上で再び、姿を現した。

 とっさに盾で防御したものは助かったが、かなりの兵が直撃を受けて大破、炎上した。


「<時空眼>か? 空間を入れ替えたな」


 信長は何が起こったのか分かってるらしかった。


(そうです。月読四姉妹の最強の末娘、月読波奈は秘密結社<天鴉アマガラス>の異能の起源のひとつ、『月読命つくよみのみこと』の血を引いています)


 晴明が心話で答える。


「では、『ひかり姫』は神沢優か?」


 信長は神沢優を見ながら晴明に尋ねた。


(そうです。おそらく、神沢優は<天鴉アマガラス>史上でも最強の戦力のひとつでしょう。信長さま同様に)


(それほどの戦力を揃えても、未来の大戦おおいくさで清明殿は勝てぬと申すのか?)


 信長は心話に切り替えた。

 話は晴明の予言の秘事に及びつつあった。


(通常戦力では負けないと自負します。ただ、わたしの予知夢では『黒い大きな影』、『恐怖の大王』のようなものが見えるのです)


(ノストラダムスの予言、黙示録の獣か)


 信長の眼光が強くなった。


(確かに、聖母マリア信仰であったはずの秘密結社<薔薇十字団>が魔女ベアトリスに乗っ取られているということなら、それもありえるかもしれぬな)


(困ったことですが。わたしとしては人事を尽くすしかありません)


 晴明は不安はあるが、ある意味、達観していた。

 千年を超えて歴史を生きてきた魂は、神に近づき、そういう境地になるのだろう。




     †




「ふう、ようやく乗れた」


 リアルド・バウアーはようやく<ベアトリスナイト>に乗り込むと、トマトジュースを飲んでいた。

 別に吸血鬼ではないのだが、好物なのでコクピットに常備している。

 

 スクリーンに味方の機体が大破してる光点が写っていたが、別に気にしていなかった。

 魔女ベアトリスに仕えたいという騎士は、この世界に無数に存在する。

 そういう意味では味方に対しても冷酷無比な男であった。

 しかも、口も軽いし、めんどくさいし。


「では、そろそろ、戦うか」


 今までの手痛い敗北を忘れたかのような言い草である。

 今日もリアルド・バウアーは脳天気であった。

 



 

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