第20話 イスパニア魔導王国、魔女ベアトリス
愛宕山に着いた一行は信長と光秀改め天海を<ボトムストライカー>隊で護衛していた。
その道すがら、安倍清明が情勢分析を語りはじめた。
(要、この
晴明が語ったこの世界の歴史は恐るべきものだった。
安東要がうなづく。
(しかし、わしの読みではイスパニアはあまり怖れるような国ではなく、イギリスが台頭すると睨んでいたのだがな)
信長が不満そうに首をひねった。
(信長公の洞察はわしらがやってきた『元の世界の歴史』では正しい。ただ、おそらく、異世界侵攻軍のメンバーである魔女ベアトリスの存在によって歴史が歪んでしまったのがこの世界なのじゃ)
晴明の言葉は続く。
(天正八年[1580年]イスパニアはポルトガルを併合し、アフリカなどの植民地を支配下にし、無敵艦隊をアジアに派遣する計画をたてた。イスパニアの外交使節としてイエズス会の東インド巡察師ヴァリアーノが翌年二月に京都に上洛し、信長公は馬揃えの軍事パレードでもてなし、安土城で七月十五日まで外交交渉をした。
だが、イスパニアの明国出兵要請を信長公が蹴って、イエズス会とも手切れとなった。
同じイエズス会のルイス・フロイスのが「日本史」の中で信長を神を怖れぬ異教徒と罵っている。
ところが、ルイス・フロイスは都から追放され、備後の鞆の浦に御所を構えて、毛利輝元を副将軍に任命している将軍足利義昭にも取り入って、京都の布教の許可を得ている。
そして、朝廷のからの使者で信長公は上洛する。
太政大臣、関白、征夷大将軍、どれでもよりどりみどりに任じるという知らせじゃ。
これが実現すれば、鞆の浦の足利義昭の将軍位は消滅し、毛利、長宗我部などの西国大名の大義名分はなくなり、逆賊として討伐できることになる。
そして、その直後の本能寺の変。
誰が信長公を罠にかけたか透けて見えるじゃろ)
清明の声が幾分、怒気を孕んでいるように聴こえた。
(わしも、囲碁とか茶会で遊び呆けて見せていたが、もしものための突貫工事で抜け穴を掘っていたのだが、まさかの服部忍軍の登場で危ないところじゃったわ。清明殿には感謝しとる。しかし、家康も怪しいが、雇い主はイエズス会か、足利義昭あたりじゃろうな)
信長得意のうつけの振りだったようだ。
(そんなところでしよう)
清明も同意する。
「では、僕らはここまでです。ご武運を」
安東要が名残り惜しそうに立ち止まって信長に敬礼する。
メガネ君と神沢優もそれにならう。
<ボトムストライカー>隊はすでに森の中に潜んでいる。
「のぶちん、てんちゃん、これ、波奈からのプレゼントよ。御守もあるよ」
月読波奈は月読家に伝わる御守の神鏡をふたりに手渡した。
首から吊り下げるペンダント方式である。
「それと、神沢優ちゃんからもサイバーグラスをあげるって。いろいろと見えるから便利だよ」
「波奈殿、なかなか良い物を頂いてかたじけない」
天海は頭を下げて礼を言った。
「いろいろ見えるって何が見えるのかな」
信長は興味深げに受け取ると、早速、かけてみた。
「ほほう。波奈殿の今日のパンツは紫じゃな」
信長は笑いながら冗談混じりに言った。
「もう、のぶちん、エッチなんだから」
と言いながらミニスカを手で押さえても無駄なのだか。
(メガネ隊長、確かに波奈ちゃんのパンツは紫です)
ナメクジ型ドローンを開発した偵察部隊のドローンオタクがメガネ君に映像を送ってくる。
(そんな機能があったのか! 神沢隊長、これは隊員たちの必須装備として不可欠です。支給をお願いします)
(透視機能はないやつで)
と無情な返答が返ってくる。
(それでは隊員たちの士気が保てません!)
メガネ君の瞳は一歩も譲らないぞ!という情熱の炎で燃えていた。
(では、見えるか見えないか半分スケスケモードのやつで)
神沢優は譲歩した。
(ありがとうございます! ある意味、それの方がいいかもしれない。ふふふ)
メガネ君はほくそ笑んだ。
後日、隊員からやっぱり見えません!という苦情が来ることになるのだが、それは後の話である。
とりあえず、この戦いを潜り抜けたら、見えるか見えないか半分スケスケモードのサイバーグラスが支給されるという通信によって、オタク軍団の士気はマックスまで高まった。
それでいいのだ。
だが、この出来事が結果的にオタクたちの命を救うことになるのは運命の皮肉というべきか。
神様も罪なことしやがるねえ。
言うまでもないことだが、天海の黒の法衣はやっぱりミニスカで白のニーハイソックスが眩しかった。
信長もお揃いの白のニーハイであったが、それが死に装束に見えるのはメガネ君の目の錯覚ばかりではなかった。
虫の知らせという奴かもしれなかった。
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