第19話 信長による本能寺の変の謎の推理

 安倍晴明の陰陽術で移動迷宮は愛宕山連歌会の開かれた天正10年(1582年)の5月28日へと時間遡行していた。

 何となく一瞬で着きそうなイメージがあるが、意外と時間がかかるので、信長と明智光秀を囲みながら安東要たちとオタク軍団たちはお茶会しながら雑談タイムに入っていた。


(わしの推理では本能寺の変の黒幕はいるかもしれんが、四面楚歌というか、味方以外は全員が犯人とも言える。一番、妖しい奴は細川藤孝とその金髪碧眼のイエスズ会の女だな)


 信長はそういい終ると緑茶をすすった。 

 信長自ら本能寺の変の謎の推理するという歴史的舞台に立ち会えて、ちょっと嬉しいメガネ君であった。


(細川藤孝……どうも幽斎の方がしっくりくるので、細川幽斎と呼ばせて頂きますが、奴は文武両道のチート野郎で歌道の奥義である『古今伝授』を授かっていて、関ヶ原の前哨戦で西軍一万五千に包囲された『田辺城の戦い』で天皇家が幽斎の弟子の大納言三条西実条らを勅使として派遣して講和したというエピソードを持つ男ですね。歌道の奥義である『古今伝授』は当時、一子相伝で幽斎が亡くなると絶えてしまう怖れがあった。その他にも、牛の角をつかんで投げたという某カラテの達人も真っ青のエピソードもあったりします)


 メガネ君がいつもの歴史オタクぶりを発揮して解説する。


(しかも、この幽斎は信長公の暗殺の密議であった『愛宕山連歌会』の裏の首謀者でありながら欠席するわ、親戚であり、親友でもある明智殿の出兵要請を断るという保身と日和見主義をした男じゃ。明智殿の娘珠姫は幽斎の息子忠興に嫁ぎ、後にキリスト教の洗礼を受けて有名な細川ガラシャ〔Gratia、ラテン語で恩寵・神の恵みの意〕と名乗ることになる。本能寺の変後の幽閉で細川家の親戚筋にあたる清原マリアらの侍女達に洗脳されてキリシタンになったようじゃ。やはり、金髪碧眼のイエスズ会の女も怪しいのう)


 晴明も細川家に入り込んだキリシタンの存在を怪しんでいるようだった。


(細川家といえば、足利将軍家、朝廷とも繋がりが深く、イエスズ会とも繋がりがある。本能寺の変の後に隠居して頭を丸めて幽斎と名乗り、息子忠興に家督を譲っている。その後も秀吉サルに重用され、関ヶ原の戦いでは家康たぬきについて、息子の忠興は前線で石田三成の軍と戦い、戦後に豊前小倉藩39万9000石を得た。幽斎は京都の吉田で悠々自適な晩年を送ったそうじゃ。わしもネットでいろいろ調べたんじゃが、ちょっと驚いた。光秀、何か言いたいことはないか?)


 信長は光秀の無念そうな顔を見つめた。


(是非に及ばず!)


 光秀はひとこと叫ぶ。


(ぐはははは。光秀、おぬしも笑いの道を究めてきたのう)


 信長はちょっと上機嫌だった。


(殿、お褒め頂いて恐悦至極にございます。しかし、藤孝はそんな男ではなかったはずです)


 光秀はそれが歴史的事実だと告げられても、何か物悲しい表情でそう言った。


(それが戦国の世の武将の習いよ。お家存続が命題ならば仕方なかろう)


 信長は光秀よりも数段クールだった。


(みっちゃん、元気だしなよ。ノブちんもこう言ってくれてるし)


 月読波奈が光秀を慰める。


(波奈殿は優しいな)

 

 光秀は莞爾かんじと笑った。


(では、そろそろ愛宕山に着くが、要、軍の編成はどうするのじゃ?)


 晴明は安東要に尋ねた。


(信長公と明智殿に連歌会に潜入してもらって、メガネ君と神沢さんの機動装甲兵装隊で護衛をしてもらおうか。『パーフェクトレッドソルジャーキリオ』オタクと『魔法少女魔女っまゆちゃん』の後楽組も<ボトムストライカー>で練兵したので、そちらの隊に組み入れています)


 安東要もメガネ隊と離れていた留守中にちゃんと仕事をしていたようだ。


(僕もそれでいいと思います。後楽組の奴ら、やっぱり、ゲームでも迷宮でも最前線で戦ってきただけあって筋がいいですし。<ボトムストライカー>の操縦もレベルが高いし)


 参謀役のメガネ君も同意する。


(では、光秀、準備はよいか?)


(はい。私はこの黒い法衣をまとって『天海』と名乗りましょう)


 明智光秀は頭を丸めて黒い法衣を来て、顔には覆面を被っていた。


(光秀、おぬしも風流を解すようになったな)


(いえ、今日から生まれ変わる所存です。この世界の未来の平和を護るために)


 凄くかっこいい決めゼリフを吐きながら、ふたり揃って、コマネチするのは辞めてほしいとメガネ君は思った。

 異世界通信できるスマホはやっぱり、信長に渡すべきではなかったね。

 しかし、本当は尊敬する信長公の次のギャグが何なのか楽しみにしていた。 

 

 その時、軽い衝撃と共に移動迷宮がどこかの洞窟に接続する音が聞こえた。

 ついに、本能寺の変の黒幕の謎を知ることができるかと思うと、心躍るメガネ君でもあった。

 

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