第二章 安土桃山時代編

第11話 本能寺の変の謎

 服部忍軍を意外とあっさり蹴散らしてしまったオタク軍団であったが、まあ、忍術を極めてるとはいえ、所詮は生身の人間である。

 人形装甲兵装では刀も爆裂弾もさほど効果はない訳で、装備の差で圧倒してしまったようだ。


 どうやら、神沢優と波奈ちゃんが信長らしき女装したおじさんを捕捉したらしい。


(是非に及ばず!とか言ってるので、たぶん、このどじょうヒゲのおじさんが信長さんだと思う)


 と波奈ちゃんから心話通信が入る。 


(女装してるのも何だかリアリティがありますね。清明さま)


 メガネ君がそんなことを言った。


(そうじゃの。確か『信長公記』によれば、信長は『本能寺の変』の際、奥の女どもに「遠慮せず早く逃げろ!」みたいなことを言ってるからの)


(『女はくるしからず、急ぎ罷り出でよと、仰せられ』と言ってますね。それから『殿中奥深入り給ひ、内よりも御南戸の口を引き立て、無情に御腹めされ』ですから、切腹したと見せかけて、実は女装して女性陣に混じって脱出し、脱出用の地下トンネルに逃げたけど、何故か、服部忍軍が立ちふさがってくるという展開になってますね。今回は)


 メガネ君はいつもの眼鏡をクイッと持ち上げる博学アピールの仕草をしている。


(あの、そもそも『本能寺の変』って何なんですかね?)


 安東要は生涯で最悪の失言を繰り出した。


(かなめちん! そこからですか! そこから説明ですか!)


(いや、違う違う、僕だって、明智光秀の謀反で織田信長が炎につつまれた本能寺で自害したぐらいは知ってますよ。ただ、謎が多すぎて、そもそも誰が黒幕さえ謎だし、信長の遺体も見つかってないようだし、謎が多すぎて、ミステリーすぎると思わない?)


 要はしどろもどろになりながら言い訳した。


(はあ、そういうことなら、まあ、よしとしましょう。信長の遺体も見つかってないことについては、信長に恩があるか、ゆかりの僧侶が遺骸を持ち出して埋葬したという説、補給基地である本能寺の火薬で身体が爆散したという説もある。京都などに信長の墓とかあるし、富士宮市の西山本門寺には首塚などもあるらしいし。黒幕についても、家康も、秀吉も、毛利もあやしいし、足利将軍家とか、ルイス・フロイスのイエズス会もあやしい。これがミステリーだとしたら、全員が犯人ということになってしまうでしょう)


(意外とそれが真相だったりして)


 要は前回よりはましなことを言った。 


(かなめちん、それはなかなかいい線だと思うよ。当時、毛利家に匿われていた将軍足利義昭による信長包囲網というものがあって、上杉謙信、毛利輝元、本願寺顕如、武田信玄、六角義賢などに書状を送ってますからね。それに、その後の歴史をみれば、豊臣秀吉の五大老は徳川家康、前田利家、宇喜多秀家、上杉景勝、毛利輝元、小早川隆景になっています。秀吉からみたら徳川家康は将来、謀反を起こしそうなので政権に取り込む、前田利家は盟友で、宇喜多秀家は猶子ゆうし(兄弟・親類や他人の子と親子関係を結ぶ制度)なので身内みたいなもので、上杉景勝、毛利輝元、小早川隆景は信長包囲網の流れを汲んだ生き残った武将になっています。徳川家康との関ヶ原の戦いでは西軍と東軍に分かれて天下分け目の合戦が行われましたが、西軍の総大将は毛利輝元で上杉景勝、宇喜多秀家は西軍についています。基本的に信長包囲網の人間関係が温存されていますね)


 メガネ君の話に晴明が加わる。


(わしの推理ではこの信長包囲網をまとめあげたのはやはり、豊臣秀吉とその軍師の黒田官兵衛であると思う。ただ、明智光秀が本能寺の変を起こした原因というのは私怨説もあるが、おそらく、信長のカラ入り構想が原因じゃろう。日本を統一したあかつきには『大船団を組んでシナ征服に旅立つ』という某有名漫画家のマンガみたいなこと言ってたらしいからのう、信長公は。光秀の年齢は55歳ぐらいじゃったと言われていて、それも考え合わせると「もうついていけない!」というのが本音じゃろう。全国統一したら内政に励むとか、長く続く戦乱が終わったら一休みして平和を享受したいのが武将たちの本音だったろうし。豊臣秀吉の朝鮮出兵、文禄・慶長の役もかなりの不評で、あれが原因で石田三成は関ヶ原で負けて豊臣家が滅びたぐらいじゃからな。歴史や地理、武将や国などの人間関係などの構造は意外と温存されるし、現代でも明治維新で活躍した薩摩長州出身者が政界を牛耳ってるし、田中角栄が首相になった時には、旧出雲や吉備勢力の新潟、鳥取、長野、岡山のグループが集結してるからのう)


 メガネ君もここで自説を展開しはじめた。


(僕の見解では、それに加えて、光秀は本能寺の変後の対策として、四国の長宗我部元親やルイス・フロイスのイエズス会を通しての九州の大友家や将軍足利義昭、毛利家にも密書を送って協力を要請していたはずです。ただ、それを何らかの諜報活動で知った秀吉というより軍師の黒田官兵衛に出し抜かれたというのが本当のところでしょう。そういう意味では家康もその情報を知ってた可能性もありますが、実際は寝耳に水で有名な伊賀越えして、兵が待つ三河に帰るしかなかったと思います)


 メガネ君が一息ついたタイミングで、神沢優から心話通信が入ってきた。


(かなめちん、信長さんをそちらに連れて行くので、お茶でも立てて準備しててね)


(了解です。姉がお茶が趣味でよく飲んだので、≪零式妄想式超光速12Dプリンター≫で何とかなるでしょ)


 要は早速、茶器のイメージを脳内で再現して用意をはじめた。

 時に3月2日の深夜頃の話である。

 東日本大震災が起こるという晴明の予言の日まで、残りあと8日ぐらいである。

 というか、タイムスリップしてしまってるので、もう日時とか無意味な気もするが。

  

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る