チェリーブロッサム

私と琴葉は姉妹である。

血が繋がっていなくとも、列記とした姉妹、家族である。

あの日からそうなったのだ。

天地がひっくり返っても、ナウマンゾウがひっくり返ってもそれは変わらない。

あの日までは、クダラが羨ましかった。妹のシエルと、無条件の愛を渡しあっていたから。

そう、私は無条件に信用できる相手が欲しかった。

親とか、そういうのじゃなくて、唯々理由なく甘えられて、理由なく信用できる相手。

まさに、クダラとシエルはそういう関係だった。

だから、義妹ができると聞いて、不安な面もあったけど、とても嬉しかったし、クダラたちにも自慢しに行った。

琴葉が正式に義妹になってからいろいろと在ったけれど、クダラのおかげで、本当の姉妹よりも仲の良い姉妹になれた気がする。

だから、私は琴葉を義妹とは呼ばない。妹と呼び続ける。


私はそんなことを考えながら、琴葉と一緒にアルバムを見ていた。

ちょうど今は、お弁当をもってお花見をしに行った時の写真だ。幼き頃の私たちが写っている。



【春】



「ねぇ、おねーちゃん」

ソファに座る悠里の膝の上でだっこされた状態の琴葉は恥ずかしそうに姉へ呼びかける。

対しておねーちゃんと呼ばれた悠里は妹である琴葉の太ももやウエストを愛撫しながら「ん? な~に~?」と手を止めずに聞き返す。

「ふとも、さわっちゃぁ。はずかしいよぉ~」

「え~、でも。この子供特有の柔らかさ、たんのーさせてよ~」

「うぅ~お姉ちゃんだって子供でしょ~?」

「でも~、琴葉ぐらいの年がー一番柔らかいよ~」

「お姉ちゃんは、その……」

「ん~?」

「ロリコン、なの?」

「ぶっ! ゲホゲホ……」

悠里は、愛撫していた手を止めて、咳込んだ。

「だ、大丈夫?」

「う、うん。大丈夫。それより、そんな言葉どこで覚えたの?」

「えっと、クダラさんが、お姉ちゃんはロリコンの気質があるから気を付けろって言ってたの」

「うぅぅクダラめぇ……」

「お姉ちゃん?」

一人でぶつぶつ言いだした姉が心配になり、声をかける。

「あはは、わ、私は、幼女ならだれでもいい訳じゃあないよ! 琴葉さえいればいい!!」

「よう、じょ? ……よく解らないけど、私もお姉ちゃんがそばに居てくれればそれでいいよ?」

それを聞いて悠里は感動しながら琴葉に抱き着いた。

「おお~、琴葉ぁ~。琴葉ラブ、マジラブ~」

「ふふっ……お姉ちゃん~。ごまかしきれてないよぉ~?」

「うぅぅ……」


☆☆☆


「お花見?」

「うん。テレビでね、明日くらいから桜がキレイに咲くって言ってたの。だからね、みんなで一緒にお花見に行きたいなぁって。ダメ?」

悠里がロリコンであるということが妹の琴葉に確信を持たれたバレた次の日であった。

琴葉は姉へお花見に行きたいとお願いしているのだ。

「いいねぇ~。クダラとシエルもさそって一緒にお花見ぃ~」

お互いに向かい合う状態で琴葉を膝の上にのせている悠里は窓の外の春日和を眺めながら、眠たそうな目をして琴葉を抱き寄せる。

「ほんと? じゃあいこう?」

「うん。じゃあクダラに電話してみるよ~」

悠里はそう言って携帯電話を取り出す。

電話帳を開き慣れ親しんだ名前を選択して通話する。

四回ほどコール音がしてから電話はつながった。

「もしもし~」

「あ~、クダラ? あのさ、お花見行こうよ」

「お花見?」

「そうそう。私と琴葉とクダラとシエルでさあ、お弁当持って公園にでも」

「そうだねぇ、シエルと一緒に……。シエルが僕のためにお弁当……いいねぇ。それじゃあ行こうか。シエルにも僕が言っておくよ」

「それじゃあ、いつにする?」

「そうだなぁ、じゃあ明後日とかは? 月曜日だから人もあんまり居ないだろうしせっかくの春休みだからね」

「うん。って、あれ。シエルには言っておくって今一緒にいないの?」

「え? ああうん。ちょっと今は外に出てて」

「珍しいね?」

「いつだって一緒ってわけじゃないさ」

「うん。じゃあまた明日打合せしよう」

「うん、じゃあまたね」

悠里は通話を切って携帯電話を机に置き、琴葉へ向き直る。

「それじゃあ、明日クダラたちの所に行ってお花見の用意しようね」

「うん!」



翌日。

悠里と琴葉はお花見の打合せをしに、クダラとシエルの家に来ていた。客である二人は窓から見える景色に感動しながら、「おぉ~」と、感嘆の声を上げる。

クダラからしてみればいつも見ている景色なので、大して思うこともないが二人からすると何度見ても見飽きないらしい。

そんな二人の様子を見てクダラは、以前シエルが「夕焼けは同じようでも毎日違う景色なんだ」と、言っていたことを思い出し、微笑ましいものを見る目になった。

「それじゃあ、明日のお花見の打ち合わせしよ~」

オレンジジュースを四人分用意したシエルはそう言ってクダラの隣に座る。

悠里と琴葉もその対面側に腰を下ろす。。

そうしてシエルが紙と鉛筆を取り出して言った。

「じゃあ、まずは場所決めよ~。どこでするの?」

悠里は鉛筆を神の上で転がしながら言う。

「う~ん、どこがいいかな」

「あの、川の所がキレイだって友達が言ってました」

「じゃあ、そこで決まりでいいんじゃない?」

クダラが琴葉の意見に同意し、残りの二人も首を縦に振る。

「よし、決まり! じゃあ、お弁当は女子組に任せて」

悠里が袖まくりの素振りをして言う。

「うん。じゃあ楽しみにしておくよ」

クダラはそう言いシエルの頭を撫でながら微笑む。

「えへへ~。クダラは何が食べたい?」

「僕はシエルが…………作ってくれたものなら何でもいいよ」

「うん。じゃあ頑張ってクダラの好きそうなもの作る」

「楽しみすぎて今日眠れるかなぁ?」

そんな対話をしながらシエルはクダラに抱き着く。クダラもシエルを抱きしめて、二人の世界に入ってしまった。

「二人が構ってくれないから琴葉成分補充させて~」

悠里は琴葉を膝の上にのせて腰を引き寄せる。

「もぅ~。じゃあ私もお姉ちゃん成分補給ぅ~」

四人ともがそれぞれの世界へ入ってから数十分後、話はいつの間にかまとまり、クダラと悠里はシエルと琴葉が遊んでいるのをそれぞれに微笑ましく見ていた。



夕陽が沈み、月光が町を支配してから再び世界が明るく照らされた。

つまりは、一日が過ぎた。

朝の七時過ぎ、二人の家に悠里と琴葉がやってきた。

「いらっしゃい~」

チャイムが鳴って出迎えたシエルは友人たちへ柔和な笑みを浮かべる。

「やあシエル、おはよう。あれ? クダラは」

「おはようございます」

二人は挨拶を済ませると玄関から入っていく。

「おはよ~。クダラは昨日ほんとに寝れなくて寝不足だからってソファで寝てる」

「あはは。クダラらしいね」

「ふふっ」

シエルの返答に琴葉までが笑い、シエルは可笑しくなって笑いがこみ上げてくる。

「ふふふふふふ。だから寝ている間にすごいお弁当作ろう?」

「もぅ、シエルは本当にクダラのことが好きだねぇ」

悠里がからかうとシエルは顔を耳まで赤くして、スカートの布で手慰みをする。

勿論、シエルにとってはクダラは最愛の存在であり、普段からこの二人の前でも甘えている。

しかしシエルは人から言われることにあまり耐性がなく、からかわれるとすぐに赤面してしまう。

「熱いですな~?」

悠里がさらに言うとシエルは「もぅっ、悠里! 早く作るよ!!」と、ぷいっと顔を背けてしまう。

「はいは~い」

悠里はそう返事をしてから琴葉の手を引く。

琴葉はというと、頭にクエスチョンマークが浮かんでいるような表情で首をかしげていた。

二人が荷物を置いてキッチンに着くとシエルはエプロンを用意していた。

悠里は琴葉のエプロンの紐を括ると自分も手早く着る。

包丁で食材を切るのは悠里が行い、琴葉がピーラーで野菜の皮をむく。

シエルは野菜を見て苦々しい顔をしつつ、フライパンで炒めていく。

お肉や冷凍食品も加えて重箱はいっぱいになる。

後はそれを包んで完成。


「クダラぁ~。お弁当できたよ~」

シエルはソファで仮眠をとっていたクダラの肩を揺すり、意識を呼び戻す。

「……ん。おはよう、シエル。じゃあ行こうか」

「うん。荷物も準備できたよ、クダラ」

「じゃあ出発しよー」

悠里がそう言うと三人が握り拳を挙げる。


「「「お~~!!」」」


結構な時間を使って目的の場所へとたどり着いた一同は場所取りを始めた。

「じゃあ悠里はそっち持って」

「よしきた~。じゃあ琴葉、鞄持っててね」

「うん」

「じゃあ、私は机組み立てておくね」

シエルはそう言い、クダラのカバンの中から折り畳み式の座卓サイズのテーブルを取り出した。

「指挟まないようにね」

シートを広げながら声をかける。

「うん、大丈夫~」

シエルは手早く組み立てて、悠里と一緒にシートの中央に置く。

琴葉は紙コップと飲み物を用意してクダラはその辺の大きめの石をシートの四隅に置く。

「じゃあ、お昼までどうしようか?」

「やっぱ、川と来たら水遊びでしょ!」

ビニール袋を取り出して悠里はそう言い放った。

「え、泳ぐの? さすがに風邪ひくよ?」

「ノンノン」

そういってスリッパを二つ取り出した。

「なるほど、足元だけなら気持ちいいかもね。僕も持ってくればよかった」

クダラはそういうとシエルがションボリとした顔になった。

「あ、ごめんねクダラ。持ってると思ってたから自分の分しか持ってこなかった」

シエルの頭を撫でながらクダラは言う。

「大丈夫だよ。僕は荷物見てるし、シエルが楽しく遊んでる姿が見れたらそれで満足だから」

「でも……でも」

「行っておいで」

言って、クダラは人差し指と中指でシエルの口尻を上げる。

「それに、シエルはどんな時もかわいいけど笑顔が一番かわいいよ」

「……うん! じゃあ、行ってくる」

「足元に気を付けてね~」



十分後。


クダラは紅茶を飲みつつシエルをスマホのカメラで撮影し、一挙一動ごとに「可愛い……」と唱える。

そうこうしている間にお昼時になった。

クダラはシエルの足を丁寧に拭く。優しく、丁寧に。

「どうだった?」

「うん。冷たくて気持ちよかった」

クダラの質問にエ外で返事するシエルの隣では足を拭き終った悠里が琴葉の足を拭いていた。


「じゃあご飯にしよう」

琴葉の足を拭き終えた悠里は鞄から重箱を取り出す。

シエルはお腹に手を当てながら「実は結構お腹すいてた」と、空腹を主張する。

「僕もだよ。ずっと楽しみにしてたからね」

「私もおなかペコペコ、お姉ちゃんは」

「もちのろん。お腹すいた」

「じゃあ早速。せーの」


「「「「ゴ○ダレー!!」」」」


某アクションゲームの宝箱が開くときの音を言いながら重箱を開ける。中から出てきたのはお弁当の定番、卵焼きやタコさんウインナーに加え、かまぼこや黒豆があった。

「いかなごのくぎ煮まである。え、作ったの?」

「くぎ煮は私の家から持ってきたの。それより……じゃじゃーん!」

悠里がそう言っておにぎりが三個入ったパックを人数分取り出した。

「この中で誰がどれを作ったでしょう?」

「そ、そう来たかぁ」

「ふふふ、クダラなら私が作ったおにぎり、わかるよね?」

シエルは悪戯な顔でクダラに言う。

「むぅ……」

クダラは顎に手を置いて考える。

「十分考え給へ」

「わかった」

「え? はや?」

「まずこれがシエルのおにぎり」

クダラはそう言って真ん中のおにぎりを指さす。

「おぉー当たり。じゃあ私のは?」

「悠里のは左側の小さい奴でしょ?」

「な、なんでわかるの?」

「琴葉が作ったと思わせるためにわざと小さく作ったんだろうけど、もう一つの方は悠里が作ったにしては小さすぎる」

「バレバレだね、お姉ちゃん」

「うぅ、完敗。……でもなんでシエルのは解ったの?」

「シエルのは簡単だよ」

クダラはおにぎりの大きさがこの前作っていたのと同じ大きさだったと言いかけたが、シエルの方を見て別の答えを出した。

「ふふふ、僕はシエルのことなら案でも解るからね」

「すごいクダラ。私も、クダラのこと何でも分かるまで知りたい」

「じゃあ今度、ゆっくりシエルの知らない僕を教えてあげる。奥深くまで」

「わーい」

シエルがクダラに抱き着いていると、悠里は悔しそうに問う。

「何でも知ってるの?」

「ん? 知ってるよ」

「じゃ、じゃあシエルのスリーサイズは把握してるわよね?」

「もちろん。身長138.5センチ、体重29.7キログラム、スリーサイズは上から順番に62/43/60だよ」

「えっ……」

クダラのその発言にシエルが「そうなの?」と首を傾げた。

「そうだよ。先週測ったばかりだからね」

「身長と体重は測ったけど、スリーサイズは測ってないよ?」

「僕が測ったよ?」

「……ん、もぅ、クダラのエッチ」

「エッチぃ僕は嫌い?」

「ううん。私はどんなクダラも大好き」

「僕もだよ」

「お姉ちゃん。エッチぃってなに?」

「う、う~ん。もう少し大きくなったら教えてあげる」



【現在】


と、そんなこんなで私たちのお花見は終わりかな。

そういえば、あれ以来、海に行ったりキャンプしたりはあったけど、お花見は言ってないなぁ。来年こそは絶対行こう。

今度は弓月やメイちゃんも誘って。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る