レイリョク






19



「これはいったい

何なんだ!」


ビドヨがまたすっとんきょうな大声を出したのでダラギャはビドヨの尻を蹴りあげた


ニェンが言ったようにそれは馬ではなかった


馬に似た形ではあるが岸まで引き寄せて近くからよく観察してみると

生物である馬とはまったく異なる物体であった


その材料がまったく見当つかない


精巧に仕上げられている作品という印象がある


これほど緻密な曲線を作れる国………ダラギャにはひとつだけ思い当たる国があるのだが………


しかしこの作品は地上の技術の枠をはるかに越えている気がする




20



「馬があ ああ 」


ビドヨがまた叫んだ


ダラギャは思考を邪魔されたので前蹴りを食らわそうとビドヨの傍までゆっくり近づく


その時無口なミョールまで叫んだ


「馬が割れるぞ!」


ダラギャは振り返って馬を見た


割れていた

馬に似た物体が真っ二つに割れていたのだ


繭のようだ

内部から巨大な蝶が現れるに違いないだろうとダラギャは思う


その時

馬の内部に人の気配がした


気配を察する感覚にダラギャは絶対の自信を持っている


だが馬のような物体の内部に人影などなかった


馬の内部は不思議な色とりどりの淡い光に満たされていた


精巧なカラクリが施されているに違いない


妙な記号のような光が蠢いていて美しいとダラギャは思う


この物体が欲しくてたまらない


用途など後からなんとか究明できるとダラギャは思う


これまで常に

失われた記憶のなかから必要なときにダラギャに知識がもたらされてきたのだから




21



「空っぽだけど色とりどりで

賑やかだぞおお 」


ビドヨがまた叫んだが叱る余裕がダラギャにはない


だがダラギャが長時間我を忘れることはない


過去を持たないダラギャは物事に捕らわれることがないので

すぐに一連の不可思議な出来事に順応した


「ニェンこの物体を

動かせるか?」


「やっている

ずっと集中して動かそうとしているけど

だめだね 諦めたよ

あたいのレイリョクじゃ

この物体を捕まえて動かすなんてできやしないよ

あたいにできないなら

誰のレイリョクでも

無理だろうけどさ 」


ニェンのレイリョクは物体を捕まえて動かすことができる


飛刀団はニェンのレイリョクにずいぶん救われてきた


ニェンのレイリョクが敵の武器を遠くから抑えつける


そうして敵を動けなくしてその間に飛刀団は逃げることができた







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る