ダラギャ







10



ナゥロがレイリョクにより感知したとおりT舵国のスィーナ湖に馬のような物体が浮かんでいた


これほど遠く離れた場所を感知するレイリョクは歴史上にも記録がない


スィーナ湖の水面は静かだ

鏡のように辺りの林が映っている


水面に波紋が引かれている


馬のような物体が岸に向かって進んでいる


竜Q国の西部海岸に出現した物と同じ形であり全く同じ動きをしている


スィーナ湖畔にダラギャが立っている


彫りの深い顔立ち

赤い髪の毛は短く刈り込んである

精悍な顔に非情さが表れている

無駄な筋肉がいっさいない

立ち姿

身体のしなやかさが自然と辺りの空気に揺らめいている


野生の猫科の猛獣を思わせる雰囲気

美しい顔ではあるが

この男の美しさに気付きたくない

この美しさは危険な美しさだと誰もが気付くはずである


ダラギャは飛刀団という盗賊団の頭である




11



T舵国と竜Q国は比較的治安が良い


盗賊団にとっては住みにくい国である


T舵国と竜Q国の間には小さな国がある


P摩国である


この小国は盗賊にとって活躍しやすい国である


スィーナ湖はT舵とP摩の国境に近い場所にある


飛刀団

それがダラギャが率いる盗賊団の名である


他の盗賊団からは飛刀団ではなく非道団と呼ばれている


この時代の盗賊にはまだギキョウシンなるものがある

ギキョウシンは盗賊のルールのごときものである


だがダラギャにギキョウシンが染み込む隙間と時間はなかった


ダラギャは短期間で盗賊団の頭になったのだ


ダラギャには少年期や幼年期の記憶がいっさい無い


ダラギャは突然この世界に青年として出現した


それ以前の記憶が無い

それ以前のダラギャを知る者もいない




12



ダラギャはある日突然にP摩国の都トリュダに立っていた


曲がりくねった複雑なトリュダの路地の片隅に立っていた


ダラギャからすればそこで生まれたようなものだ


トリュダの路地に呆然と立っている精悍そうな若者を拾ったのはトリュダで古くから活躍している盗賊の頭であった


ダラギャという名前はその頭が付けた


トリュダ辺りの方言で「名無し」という意味である


ダラギャを拾った盗賊団は古いしきたりに縛られた由緒正しい盗賊団であった


ダラギャはすぐに盗賊の技術を吸収していったがギキョウシン等の古いしきたりは一滴も吸収しようとしなかった


だが最初から使える手下であったのでとりあえず頭は盗賊の技術をすべてダラギャに叩き込んだ


ダラギャは弱音も吐かずにすぐにすべてを吸収し終えた








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る