ザナザ
4
ザナザという名の漁師がいる
竜Q国の西側の海は広大で豊穣な漁場である
ゆえに、西の海岸線に沿って多数の漁師村が点在している
そんな村のひとつにザナザという漁師がいる
ザナザは大男である
通常の漁師五人分の長さの銛を軽々と操る
竜Q国の漁師でザナザの名を知らぬ者はいない
それほど優秀な漁師である
漁の腕だけではない
槍の使い手としても高名である
ザナザの武術の腕を王リュウライは高く評価しているが、ザナザは漁師として欠かせね存在ゆえに通常は漁師として働き、有事の際にのみ将軍として事にあたるという待遇がなされていた
ザナザを将軍として常時用いる必要がないほど、武の大国竜Qには優秀な武人が揃っている
異人タクトフービを発見したのはこの漁師将軍ザナザであった
5
松は丘を知る
空は王を知る
色変えぬ松のごとき王は
「詩人の知るべき
譜面とは?」
と問う
詩人は
「風に行方を問うとき風は もうそこにいません
王が問うた風は遠くにいます
新しい風である詩人には問いそのものがもたらされないのです
なぜなら、問いは古き風が遠くまではこんでしまったからです
王の持つ譜面の音符はすでに風が遠くまで運んでしまいました
詩人が知るべき譜面は月の歌の譜面です
王の明かりにて照らされる
月の歌を今宵… 」
丘はすでにして月を知っている
詩人は小さな声で歌う
宇宙は歌を知っている
6
馬に違いない
荒れている海
漁に出るにはあまりに危険な海
ザナザは浜辺に立っている
このように荒れる海に出てゆく無謀な若者がたまにいる
気持ちは解らぬでもない
ザナザはそのような無謀な漁師を発見したなら竜Q国一と称される大声で戻るように説得する
ビリビリと雷雲さえ震えさせるようなザナザの声に従わない舟などない
もし従わない舟が荒れた海に突進して行ったとしても
ザナザはその無謀な舟を引き止めるために救助の舟を出すつもりなどない
数々の思いがザナザを陸に繋ぎ止めてしまうのである
時々ザナザは全裸となり荒れた海そのものに戦いを挑むという熱望を持つ
波の冷たい飛沫で、そのような熱望を冷やしながら浜に立つザナザ
そのとき荒れた海に馬が現れたのである
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