第15話 フリーター、嫁になる
結婚式はしなくとも、
せめてドレス着て写真だけ撮りたいなーとは思っていた。
色々調べて、二人だけなら10万前後とかで挙式ができると知った。
よく、先に籍を入れて結婚式は1年後、とかもあるが、
私の場合、稼いでこまめに貯蓄できるタイプではなく(生活もギリギリなのに)
Jも結婚式を積極的にやりたいという人ではなかったから、しないと思っていた。
きっかけは、Jのご両親である。
既に入籍するつもりだとは伝えていて、Jは式はやらないと思う、と話していた。
恐らくJのお母さんは、金銭的なことが理由だと気付いたのだと思う。
お姉さん達にもあったようだが、Jにも必要な時に渡せるお金を貯めていたようで、
それをこのタイミングでJに渡してくれたのである。
そのおかげで、Jが「せっかくだから式をしようか」と言ってくれた。
あの、その場限りのことにお金を使うことに異常に神経質なJが。びっくり。
と言っても、やはりそのお金を使うことには相当な抵抗があったようで、
借りる気持ちで、いずれ使った分を返すつもりで使おう、とのことだった。
そうと決まれば式場探し。
私はもともと、二人でするとしても海の近くの式場がいいなぁと思っていて、
色々と調べてはいた。結局、家族と友人数人を呼ぶ小規模な式をやることになり、
海が見える候補の式場を何件か見て回った。
結果、1日に3件を見たが、最後に見に行った式場が一番ロケーションが良く、
料理も一番美味しかったので、そこに決めた。
最初の見積もり額も、Jの許容範囲だった。
が、最終的に、見積もり額の倍の金額になってしまう事に。
私がお色直しをしなければ良かったのだが、
人生で一度きり、と考えると、やりたいという気持ちがもたげてくる。
Jも、いいよ、と言ってくれてはいるものの、やはり気持ちはお金に向いていて、
「必要ない」「お金がもったいない」と思ってしまう自分に自己嫌悪、
という相変わらずのループにはまっていた。
私は確かに元来、もらえるものはもらう、くれるというなら遠慮はしない、
宵越しの金はもたないタイプだった。
んで、ときたま
「人生楽しく生きたもん勝ちじゃん、
お金とか先のこと考えても仕方ないっしょー!」
という超絶前向きポジティブ思考になる時があるのだが、そこが時々Jと合わない。
Jからすれば、そういう考えもアリだし、
そういう前向きなところに押されて結婚を決意した、との事だったのだけども。
Jのお母さんは倹約家で、その姿を見てきてしまっているから、
どうしてもついていけない、という気持ちになってしまうらしい。
結婚式で決めなければいけないことが増え、
見積もり額が上がるたびに、Jの機嫌が悪くなった。
私としては、やるとなったら、来てくれる人に楽しんで欲しいから、
変な妥協はしたくなかった。自分で稼いだお金じゃないのが心苦しいが、
使うと決めたのに、変なセーブをかけて、中途半端な式にはしたくなかったのだ。
そこで、やっぱり喧嘩になった。
というか、式までの間に、かなりの回数、喧嘩をした。
主に、私がプランナーから提案される演出に好意を示したり、
やりたいなーといった意思表示をした時点で、Jが不機嫌になる。
既に十分すぎるほどお金を使おうとしているのに、さらに使うつもりか、と。
自分で稼いでもないくせに、とも言われた。
喧嘩中のこととは言え、やはり傷ついた。
そんなに言うなら最初から式やろうなんて言わなければ良かったじゃん、と、
お互いになじりあった。
ある時、どうにも我慢できなくて、少しだけ自傷した。
結婚が決まってもダメなのかと、かなり落ち込んだ。
けど、なんとか仲直りした。
結婚式の日は決まっていたし、
なんだかんだ準備は終わり、当日。
月並みな言い方だけど
人生最良の日になった。
天気は快晴。
人前式で、友達に問いかけてもらう方式の誓いの言葉。
問いかける内容は友達に任せたが、私の友達もJの友達も、
最高の問いかけをしてくれた。
友人にスピーチしてもらったり、ケーキカットしたり、
両親への手紙読んだり、ここまで式らしい式ができるなんて夢のようだった。
最初から最後まで、私もJも、みんな笑いっぱなしだった。
Jが休み返上で自作したプロフィールムービー、エンドロールも、最高の出来。
私とJの二人でサプライズ企画していた出し物は、式場の人にも好評だった。
今まで、
私は誰にも、本当には愛されない。
そう思い続けてきた。
ずっとではないが、結局いつもその考えに行きついてしまっていた。
でも、あるとき
「あなたが死んだら、あなたと出会って幸せになるはずだった人が可哀相」
というような内容を、どこかで読んだ。
もし、どこかに私を必要としてくれる人がいるなら。
こんなダメダメな、普通に生きることにも苦労している人間と、
ずっと一緒にいたいと思ってくれる人が、どこかにいるなら。
まだ見ぬその人の為に、死にたくないな、と思った。
それが、Jだった。
喧嘩するたびに、出会わなければ良かった、
いままでの人たちと一緒だと、暴言を吐きまくった。
自傷行為もした。それでも、離れなかった。
私の無茶ぶりを、受け止めてくれた。
これで終わりじゃない。
これからも、生活はずっと続いていく。
でも、やっぱり私にとって、大きな節目になった。
私が欲しくて欲しくてたまらなかったものを、Jがくれた。
辛いことやしんどいことがあっても、
Jとだったら、乗り越えていける。
いや、何が何でも、乗り越える。
そのくらいの覚悟で一緒にいよう。
まだまだ問題のある私だけど、
Jの為にも、自分の為にも、
少しずつでも、前を向いて歩いていきたい。
壮絶な過去なんて持っていないし、
人に寄りかかって贅沢に生きてきておいて、
なに甘えたこと言ってんだと言われてもおかしくない。
ただ、そんな人生の中でも生きづらさを抱えてしまった私が、
ようやく心から安心できる居場所を得たこと。
これは、とても大きなことだから。
精神的にも物理的にも、
もう自分を傷つけないために。
自分のここまでの生涯を書き連ねた。
ネットで、似たような症状や悩みで相談している人へのコメントで、
『私も死ぬほど辛かったけど、
今のパートナーと出会って、幸せになれた。
希望を捨てないで』
など、同じようなことを書いている人を、何回か見てきた。
そのときは、私にはそんな人は現れない、と思っていた。
そう書いている人は、
たまたまそういう人(パートナー)と出会えたから言えるんだ、と。
でも、本当に私にも、現れた。
何かが変わり始めたのは、自分で自分に優しくし始めてからだった。
自分を罵倒して、我慢して、傷つけて、
お前なんかいらないと言い続けてきたのは、
他人じゃなく、自分自身だった。
人に好かれなければ、生きている価値がない。
そう思い込んでいた。
嫌われるのも厭わず、我慢をやめて、
自分の好きなように生き始めたら、世界が変わった。
どこかで、同じような気持ちで苦しんでいる人がいたら、
やっぱり私も、月並みなことを言ってしまうと思う。
自分が満たされて初めて、気付けることもある。
恋愛に限ったことではないけれど。
どこかに、あなたと出会うのを待っている人がいるかも知れない。
もしかしたら、その人はすぐ傍に来ているかも知れない。
その人の為にも、死なないで欲しいと、願う。
違う世界に出会える可能性を、捨てないで。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます