第44話美しい声で残酷に囁く
『おはよう……精霊王ジン』
境界ランプを儀式台に捧げるとハザード王がついに目を覚ました。
しかし数年ぶりに目覚めたハザード王の異変にランプの精霊ジンはすぐに気づいた。
ハザード王は私が『精霊王ジン』であることは知らないはずだった。
だから『ランプの精霊ジン』は自分がとてつもない勘違いをして今までハザード王に尽くしてしまったことに気づいた。
『おはよう……精霊王ジン。私のためによく頑張って尽くしてくれたね。礼を言うよ……この私、境界国の王ハザード……いやソロモン王の復活に尽力を尽くしてくれてね』
ソロモン王の復活?
ハザード王が憎いソロモン王本人だというのか?
そんな馬鹿な……。
「あはは! 何を驚いているんだい? ジン……ボクはかつて精霊王のキミから真名(しんめい)を譲り受けたソロモン王本人だよ。今まで表面上の名前であるハザードを名乗っていたけれど……魔導王としてはこの名前は相応しくないからね……。これからは魔導名であるソロモンを名乗ることにするよ」
やめろ! やめろ! やめろ!
ハザード王はソロモン王本人。
ランプの精霊ジンは耳を塞ぎたかったがソロモン王は饒舌に語り続けた。
「ありがとう! いっぱい罪のない人間の命を僕に捧げてくれて! その人たちのためにも今度こそ良い世の中にしないとね……」
『ありがとう罪のない人間の命を僕に捧げてくれて』
ハザード王の声でソロモン王は明るく、だが精霊ジンを咎めるように言った。
「罪のない人間をたくさん殺すなんてやっぱりキミは残虐非道な精霊王ジンだね! ボクの事を咎める資格なんかないよ!」
ソロモン王はハザード王の姿形でその美しい声で精霊ジンの罪を咎めていく。
やめろ! やめろ! やめろ!
「そうだよね! 人殺しの精霊さん!」
やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ……
やめろ……やめてくれ!
それ以上ハザード王の姿形で……ハザード王の声で酷いことを言わないでくれ……。
「ジンは知らないみたいだから教えてあげるよ。人間っていうのは生まれ変わりというものがあるんだ。魂が消えたように見えてもやがて新しい肉体を手に入れて生まれるんだよ。精霊達は生まれ変わりを信じていないからあまり理解できないかな?」
生まれ変わり……それくらいは自分だって知っている。
だが精霊である自分たちには無縁の現象なため関心があまりないのだった。
「さてと……久々に目覚めたし湯に浸かってをしてリフレッシュしたいなあ……美味しいものもたくさん食べて……それからこの世界をどう動かしていくか考えないとね! このソロモン王のボクが!」
ハザード王改めソロモン王は地下室を出て意気揚々と地上に向かっていった。
それはまるで太陽が昇るかのごとく明るい眼差しだった。
悪魔ゴエティア達は境界国の王ハザードがソロモン王の生まれ変わりである事を古い魔導契約を通じてすぐに察知した。
境界国は悪魔ゴエティア達が一気に押し寄せ、活気が戻った悪魔達はこれから起こるであろう戦いに向けてたくさんの人々の魂を喰らった。
悪魔ゴエティア達にとって人間の魂は「ごちそう」なのだ。
だが突然人間が大量に死に始めた境界国を人々は誰も悪魔ゴエティアの仕業だとは気づかなかった。
この現象は目に見えない事柄だからだ。
「えっ? 入国禁止? 」
シャルロット嬢の具合を境界国にいるリー店長に報告しようとしたが境界国はどうやら入国禁止だという。
なんでも突然病気が流行してしまい人々がたくさん亡くなったからだという。
「困ったね……しばらく君たちはこの国に滞在するようかな?」
シャルロットを心配して付き添ってくれたクーロン博士は境界国のニュースを聞いて驚いているようだ。
「リー店長……大丈夫かな」
リー店長は不老不死らしいが意外と風邪をひいたりするし、ごく普通の部分を持っている。
それに他の境界ランプの持ち主達も何人か境界国に残っているだろう。
前回一緒に任務をこなした踊り子双子美人姉妹やちょっとナマイキなネット魔導師のユミル少年……悪魔ゴエティアの襲撃から一命を留めたアブラカタブルさん……何人か境界国に残っている気がする。
オレが契約した魔導師のアティファは今回の調査任務から外されていたためリー店長と一緒に留守番している。
こんな大変なことになるなんて……。
「まるで悪魔に取り憑かれてしまったような……」
オレは自分で発言してこの発言に気づく部分があった。
悪魔ゴエティア達は人間を弱らせる瘴気を持っている。
オレにはこの大量の人間の死が何か見えない悪魔のチカラなような気がしてならなかった。
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