第36話調査任務依頼


精霊王の宮殿にある会議室。

その重厚な扉を開けて赤い絨毯の広い部屋にコツコツと一定のリズムで革のブーツを鳴らしながら入ってきたのは落ち着いカーキ色の軍服に身を包んだ青年だった。


青年はサラサラした銀色の前髪を揺らしているが決して長髪というわけではなく後ろ髪は程よい長さで襟足を隠す程度だ。切れ長二重の青色の澄んだ瞳は奥に鋭さを宿し彼が軍人であることを否応なしに実感させる。

高く通った鼻筋は青年の気位の高さを感じさせ、固く結ばれた唇からは軍人特有の決意が見受けられる。


彼がカラス特別大尉?


新しく結成された「夜明けのリミニス団」の特別大尉として招かれたのがカラス特別大尉だという。


「響木千夜です、あのよろしくお願いしま……」


オレが挨拶をしようと座らされていた席から立ち上がり握手を求めて手を伸ばすと青年は突然白い手袋を嵌めた右手を上げ短く呪文を唱えて電撃系の攻撃呪文を放った。


バチバチバチ!


「ギャアアアアアアア!」


オレの真後ろから異質な悲鳴が聞こえた。

どうやら青年はオレの命を狙っていた悪魔を一瞬で消し去ってくれたようだ。


「君の上司になるカラス特別大尉だ。よろしく頼むよ」


カラス特別大尉は少しだけ表情を柔らかくしてオレに挨拶をしてくれた。


カラス特別大尉は思っていたよりも若い人だったのでオレはとても驚いた。


てっきり中年の落ち着いた軍人が来ると思っていたからだ。

魔導師結社なのに軍人を介入させるという精霊王の考えがはじめはよく分からなかったが、軍人であると同時に魔導師でもあるらしい。


それもそのはず、彼は精霊達の国精霊国の軍人だという。精霊なら魔法も当然のように使えるだろう。


「あの気まぐれな精霊王に振り回されてキミ達も大変だったね。『夜明けのリミニス団』は数百年前に結成されては消えていった幾つかの魔導秘密結社を継承するという建前で作られたそうだ。本当は境界ランプの持ち主達を囲い込むことが目的なんだろうけど」


そう言ってカラス特別大尉はオレに小さな黒い小箱を手渡した。


「夜明けのリミニス団の団員である証だそうだ。安心してくれたまえ。これを受け取ってもキミは軍人になるわけでもなけれ魂が拘束されるわけでもない。ただ、ひとつの魔導組織の一員になったという目印だよ」


小箱の中には魔法陣と星をあしらった小さな銀のバッジが収められていた。

さっそくシャツの襟元にバッジをつける。


「このバッジには魔力回復効果があるそうだ。精霊王が直々に魔力を込めたという」


カラス特別大尉がバッジの効力について説明していると


「気まぐれな精霊王だけど入らせてもらうよ」


と精霊王ガイアス本人が会議室に入ってきた。


どうやらさっきの会話は精霊王には筒抜けだったようだ。


だが、カラス大尉は素知らぬ顔で

「自覚がおありならもっと計画性をもって頂きたい……そうすれば皆も喜びますよ」

と余裕の表情だ。


もしかして2人は結構親しいのだろうか?


「カラス特別大尉は私の学生時代の後輩でね。昔からよく無理を言って困らせたんだがこんなに付き合いが長くなるとは思わなかったよ。まあ、私がカラスを強い軍人に育てたと言っても過言ではない」


そういうことか。

学生時代からの付き合いなら親しいのもうなづける。


「さて、千夜君。今日からキミも正式な『夜明けのリミニス団』の組織魔導師だ。今までのテスト形式と異なり調査任務という形で魔導王のテストは継続したいと思う。さっそく初めての調査任務だよ」


そう言って手渡されたのは、境界国からはるか遠く、シルクロードのとある魔導施設の調査書類だった。


「シルクロードにあるこの魔導施設に悪魔ゴエティア達が人間に扮して魔導実験を行っているとの情報があった。

その施設に入った人間は1年間姿を見かけなくなり戻ってきた頃には魂が抜けたようになって帰ってくるという。カラス特別大尉、精霊セラ、同じ境界ランプの使い手シャルロット嬢とともに調査に当たってもらいたい。出発は明朝。健闘を祈る」


そう言って精霊王はオレに書類を渡して魔法で瞬間移動し消えた。


どうやらオレはこれから組織魔導師としてめいいっぱい任務をこなすことになりそうだ。

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