第33話契約の銀のアンクレット
『お前のランプと命もソロモン王の復活の糧になれるのだ……ありがたく思え』
黒い蛇の姿をした悪魔ゴエティアが瘴気を漂わせながらオレの魂を奪うために小さな蛇達をオレの身体にまとわりつかせてくる。
毒蛇だろうか?
『かわいい私の蛇たちよ……。境界ランプの持ち主の魂を吸い尽くし、我らがソロモン王のためにランプを手に入れ……グハア!』
瘴気を放ちオレの動きを封じていた悪魔ゴエティアの腹部に強烈な蹴りを喰らわし、吹き飛ばしたのは境界ランプの精霊セラだった。
「私のマスターは響木千夜(ひびきせんや)だけです。私の所有者はソロモン王ではない! このアンクレットに誓って……」
セラの足首にはオレとランプ契約した証である銀のアンクレットが輝いている。
精霊と契約魔術を交わすには必ず金属を用いなければならず、精霊セラの契約金属は銀だという。
錬金術とは魔法で未知の金属を生み出すと言われているがあれは精霊と契約を指しているのかもしれない。
そしてアンクレットには従属の意味があり、セラにとってオレは最初で最後のマスターだと言っていた。
『くっナマイキなランプの精霊だ。オマエは廃棄してもっと従順な精霊をランプに入れてやる……』
悪魔ゴエティアが小さな蛇達を一斉に精霊セラに向かわせる。
しかし、セラに悪魔ゴエティアの瘴気は効かないのか蛇達を蹴散らしていく。
「私の死は境界ランプの死を現します。境界ランプは私そのもの。それがランプの精霊を務める者の覚悟よ! あなた達のように精霊の名を捨てて悪魔に落ちたゴエティア達とは違う!」
精霊の名を捨てた?
悪魔ゴエティア達は元は精霊だと言うのか?
「キュー! マスター千夜、今お助けしますキュ」
悪魔ゴエティアの魔力でオレと引き離されていたミニドラゴンのルルが青い炎を吐き黒い蛇の瘴気を浄化した。
ルルにこんなチカラがあったとは……。
『聖なるドラゴンの一族か……厄介だな。蛇達よ、あの小さいドラゴンからヤれ!』
蛇達はターゲットをオレからミニドラゴンのルルに変え、蛇の大軍がルルに襲いかかる。
「キュー!」
ルルは天井の方まで飛び上がりなんとか蛇達の猛攻を避けた。
「千夜さん、あの小さい蛇達は本体の悪魔ゴエティアを完全に倒さない限り無限に増殖します……。精霊の私なら瘴気に負けることはありません。私に悪魔ゴエティアの完全抹消を命じてください」
悪魔ゴエティアの完全抹消……。
だけど、それじゃあ悪魔ゴエティアに取り憑かれたアブラカタブルさんは?
もしかしたら、洞窟の中で出会った悪魔に取り憑かれた女性のようにまだ生きているかも知れない……。
オレは一か八かの可能性に賭ける事にした。
「精霊セラ……マスター千夜が命ずる。小さな蛇達の殲滅に集中、時間稼ぎせよ!」
「えっ?」
精霊セラは一瞬意外そうな表情を見せたがすぐにオレの意図が分かったようで
「かしこまりました。マスター」
とルルに襲いかかっていた小さな蛇達の殲滅に取り掛かった。
『くくく……。愚かな人間よ、この身体の持ち主に同情して我の完全抹消を避けたか? やはり普通の人間では魔導王には相応しくないな……死ね!』
オレは悪魔ゴエティアの攻撃を避けながら魔導装備召喚用のタロットを1枚引いた。
『愚者のカード』
確かにこの状況で完全殲滅を避けたオレは愚かかも知れない。
だが……
愚者のカードは愚か者であるからこそ不可能を可能にすると言われている。
「召喚! 魔導装備愚者の象徴!」
オレの手元に召喚されたのは愚者のカードで冠として描かれている月桂樹の枝だった。
月桂樹には古来より魔力が備わっているとされ、邪悪から身を守り、その人の中の眠れる魔力を呼び覚ますと言われている。
「月桂樹よ! その聖なる魔力をもってかの魔導師のチカラをもう一度呼び起こせ!」
オレは月桂樹の枝を悪魔ゴエティアに向かって投げうち、月桂樹は悪魔ゴエティアの体内へと埋まっていった。
『キサマ……何をした……?』
悪魔ゴエティアの動きが止まる。
誰かの声がゴエティアの中から聞こえる……これは魔法詠唱……。
『身体が……崩れ……ル』
魔導師アブラカタブルさんに取り憑いていた黒い蛇が本体から分離した。
最後のチカラで魔法詠唱をしていたのはアブラカタブルさん本人だった。
手にはオレが放った月桂樹の枝が握られている。
「大丈夫ですか?」
アブラカタブルさんの脈をとるとかろうじてまだ生きていることが分かった。
セラがオレの様子を見て
「次の命令をマスター……」と言ってくる。
もう迷う理由はない。
「精霊セラ……お前のチカラを貸してくれ。マスター千夜が命ずる。精霊セラよ、悪魔ゴエティアの完全抹消に協力せよ!」
「かしこまりました、マスター千夜!」
オレとセラは全力で黒い蛇の悪魔ゴエティアに攻撃を放った。
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