第32話黒い蛇


黒い蛇の使い魔がオレの身体に巻きついてきて身動きが取れない。黒い蛇はあからさまにオレを集中的に狙っている。オレの境界ランプは敵チームのターゲットになっているようだ。


「悪いけど、千夜サンの境界ランプはボクたちがいただくよ」


そう言ってネット魔導師ユミル少年は笑顔でオレの胸に下げられているペンダント型携帯ミニランプに手を伸ばした。


だが……。


「悪いけど、ボウヤの境界ランプは私たち双子姉妹がいただくわ!」


そう言ってユミル少年がオレからランプを奪う前に双子姉妹がユミル少年のランプをあっさり奪ってしまった。


「あ〜! いつの間に?」

ユミル少年が驚いて叫ぶ。


双子の片割れが奪ったユミル少年のランプを金糸の刺繍入り巾着に収める。気がつくと2人とも同じ巾着袋を右手に持っている。


ロングヘアを揺らし、ミニスカートをヒラヒラさせておどけた仕草で双子ははクルクルと舞う。

動き回るのでどちらがランプを奪ったのか、もはや分からない。


ユミル少年は慌てた様子で自分のランプを取り返そうとするが、まるで踊っているかのような身のこなしでユミル少年の攻撃をかわす。

流石はプロの踊り子だ。


「奪ったランプをコテージエリアの入り口にある受付の精霊に渡せば今回のテストクリア。返して欲しければ、私たちを全力で追いかけることね!」


「でも、私たち双子姉妹をあなた達に見分けることができるかしら?」


双子姉妹は性格が異なるために今まで見分けがついていたが、敵を撹乱するためなのか2人とも気の強いキャラであるお姉さんの朱那(しゅな)に見えてしまう。


「ふふ、捕まえられるものなら捕まえてごらんなさい!」


「千夜君! 敵との戦闘頼んだわよ!」


そう言って2人は部屋の外へと出て行った。ユミル少年も負けじと追いけようとするが、ランプを奪われたせいで魔力が低下し呪文がうまく発動しないようだ。


「どうしよう……移動魔法が使えなくなっちゃった。それにあの双子を見分けるなんて無理だよ! あの2人おんなじ髪型にお揃いの衣装で完全にシンクロしてるんだもん!」とユミル少年が落ち込んでいる。


これが撹乱作戦……。


「どうやら、ミイラ取りがミイラになっちまったみたいだな……ユミル! 取り敢えず双子姉妹を追うぞ! 出なきゃオマエ脱落だ」


バンドマンのデュアルさんがユミル少年と一緒に外へと行った。


にも関わらず、オレに巻きついてきた黒い蛇の使い魔は未だに増殖している。

そういえばこのテストは3人で1組のチーム。もう1人ランプの持ち主が参加しているはずだ。

それに自分のパートナーである精霊のチカラを借りることも許されている。


この黒い蛇の魔法は一体誰が使っているんだ? 術者を倒さなければこの蛇達は消えることはないだろう。


すると、普通の壁に見えていた場所から突然黒い人型のカタチが浮かび上がってきた。


ドサッ


悪役風の魔導師ローブの男性……この人は確か先祖が裏切り者だとされているアブラカタブルさんだ。


「うう……早く、逃げてください……あいつがみんなの命を狙って私の身体を……」


オレに取り憑いていた黒い使い魔の蛇の群れがアブラカタブルさんに群がり彼を覆い尽くすようにひとつの黒い何かに変化した。


「あああああああ!」


絶叫をあげて静まるアブラカタブルさん。

この黒い蛇はアブラカタブルさんが出した使い魔じゃなかったのか?


『ふう……ようやく邪魔者が消えて初代境界ランプを我が手に収めることができると思うと嬉しいよ』


さっきまでアブラカタブルさんだった黒いかたまりは黒い巨大な人型の別の何かに変化した。

顔は蛇そのものだ。


『我々は長年この男の家のランプに取り憑いて魔導王の玉座を狙ってきた。裏切り者というレッテルをはられても健気にランプの使命を果たそうとして哀れなヤツだったよ』


このドス黒い瘴気は以前もオレは対峙したことがある。

ソロモン王に仕えていたという悪魔ゴエティアが持つ瘴気だ。


「お前……悪魔ゴエティアの1人か? なぜアブラカタブルさんを?」


黒い蛇の化け物は笑って、その辺の人間に魔導王はふさわしくないからと答えた。もちろんすべての人間にはソロモン王を越えることは不可能だという。


『我々、悪魔ゴエティアは境界ランプをすべて奪い真の魔導王であるソロモン王を冥界から復活させることを目標にこれまで活動してきたんだ。精霊王が課すテストに紛れてどんどんランプの持ち主たちからランプを奪おうという計画だよ。他のランプの持ち主たちの元へも別の悪魔ゴエティアが向かっているだろう』


悪魔ゴエティアはオレを見て不気味に笑ってこう言った。


『お前のランプと命もソロモン王の復活の糧になれるのだ……ありがたく思え』……と。

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