第19話監視者メシエ


「頑張ってくださいね響木千夜(ひびきせんや)さん」


オレに小声でそう言いタロットカードセットを手渡してきた不思議な占い師。彼は一体何者なのだろう?


オレが手渡されたタロットカードセットをぼんやり眺めていると、魔導師貴族の令嬢シャルロットが占い師について話し始めた。


「さっきの占い師の方……私たち境界ランプの持ち主を見張る監視者メシエですわ。千夜さんは第1テストに完全に合格されたのね。そのタロットカードは魔導アイテム……おそらく第1関門突破の報酬ですわ」


このタロットカードは報酬だったのか……上手いこと言って買わされた気もするが。


「監視者メシエって何?」


境界ランプのテストは精霊王の使いが見張っていると聞いていたが、見張りの名前までは知らない。


「監視者メシエ……精霊王の使い達のコードネームです。元々は星座に使われていた名称でコメットハンターと言われたメシエという学者の名前から付けられたものですの。でも今現在はその星座自体存在しておりません」


現存しない星座の名前か。


「そういえば、天文学はギリシャローマからアラビアに受け継がれて発展したんだよな……。境界ランプを使いこなしたければアラビア星座について調べると何かヒントがあるのかも」


アラビアを経て出来たプトレマイオス48星座が長い間使われていたということくらいしかオレは天文学については知らない。考古学者かぶれにしては知識が浅かったな。


次のテストまで数日ヒマがあるらしいし、ランプの精霊についても分からないことだらけだし、魔法のランプのヒントがあるのかもしれない、少し調べてみるか……。


「千夜君もこれからいろいろお勉強しないとね〜! 天文学の勉強も素敵だけど即必要なのは今後のテストに向けて魔導アイテムを使いこなせるようになることだと思うよ。シャルロットちゃんなんか魔導師貴族のサラブレッドだし、魔導勝負なんかするハメになったらあっさり負けちゃうだろうね〜」


魔導勝負?

そういうのは魔導師のアティファに任せておけばいいんじゃなかったのか?


「リー店長……タロット占いが出来たからって魔導勝負の役に立つようには思えないんですが」


「出来るんだな! それが」


リー店長はニヤリと笑ってドヤ顔で解説し始めた。


「カード魔術っていうジャンルがあってね、いろんなカードの絵柄に合わせた面白い魔法が使えるんだよ! まあそのタロットカードセットにすでに組み込まれている魔術しか使えないんだろうけど、コテージに戻ったらしばらくお勉強だね! 1週間後に第二テストだってさ」


1週間後……意外と時間があるな。


「1週間……テストで怪我をして人達からすると短いでしょうね……」


シャルロットがぼんやりした表情で言った。


「怪我? 怪我人が出たのか?」


オレのテストもいろいろ物騒だったが暴力的なヤツらはすべて魔導師のアティファが自力で倒してしまったし、商人に言われるままアティファをじゅうたん10枚分で買うという方法しかなかったため、怪我をするようなことはなかった。


「ええ……言っていいのかしら? 従兄妹のランディがテストで怪我をしたんですの。テスト自体は合格だったんですけど、次のテストまでに回復するかどうか……心配ですわ」


ランディ……シャルロットと同じ魔導師貴族の家柄でスカした感じの金髪美形法科大学院生だ……彼はスカしていないとちょっと間が抜けているというかぼんやりした雰囲気だったので舐められるのかもしれないが……。


「何でも木の高いところに登ったきり降りられなくなった魔法猫を救出するのがランディのテストだったらしいんです。木と言ってもかなり高めで悪霊が取り付いた特別な木で……とにかく大変だったらしいですわ」


「悪霊が取り付いた特別な木……目の前の問題を解決せよって人それぞれ内容が違うんだな」


食後のお茶を飲んだ後、食事会は解散になりオレ達はコテージに戻った。

コテージの自室でタロットカードセットの解説書を読むと占術方法が書いてあるだけだった。


「何だ……本当にただの占いの道具じゃないか。カード魔法の使い方なんてどこにも書いてないぞ」


取り敢えず部屋のデスクの上にタロットカードを並べてみる。大アルカナのセットで絵柄も凝っていて美しいタロットカードである。


「1番簡単な占術方法は一枚引き占いです。シャッフルして一枚引くとあなたに必要なカードや助言、質問の答えが分かります」


なるほどね。

初心者のオレにできる占いとしてはこれくらいが手軽だろう。


その時のオレは、まだこのカードがオレの戦いの道具になるとは夢にも思わなかった。

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